2019年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  白川 郁栄

【特別賞】漁師町の男

市場から声が聞こえる。セリが始まったみたいだ。元気のいいおっちゃん達の声が港にひびく。ぼくのじいちゃんもその中の一人だ。

今日はハタハタを仕入れに行くらしい。

「行ってくるわ」

というじいちゃんの声が聞こえたので、ぼくはあわてて、

「おれも行く」

と、大きな声でさけんだ。

ついていってみると、たくさんの人であふれかえっていて、ぼくの声など、じいちゃんにとどきはしない。

そんな中、セリが始まった。ぼくは、セリとはどんなものなのか楽しみな気もちでいっぱいだった。じいちゃんはいつもとちがう表情で、一番いい魚をお客さんにとどけたいという意気ごみが伝わってきた。

一つの箱に店の名前とねだんが書かれた紙が、重なっていく。だれがその箱の魚を買うのかどきどきしながら注目した。

一番上においたのは、ぼくのじいちゃんだった。その時じいちゃんを見なおした。一つの箱を買うのに、時間がかかることにおどろいた。でもそれだけそれぞれの店の思いがあるのだなあと思った。

ふと初めて行ったセリのことを思い出し、心の中でじいちゃんを応えんした。さっきまで海で泳いでいた魚が、市場に出されてピチピチはねている様子を思い出しながら。

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