2009年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  野村 拓矢

【特別賞】夏の川

八月のお盆に、私たち家族は黒木のおばぁちゃんの家に行きました。その時、私は今までに見たこと

がないような美しい川を発見したのです。

おばぁちゃんの家に着いて、昼ごはんを食べた後、

「ばーちゃんは忙しかけん、クッキーば散歩に連れていってくれんね?」とおばぁちゃんが私に言ってきました。クッキーとは、おばぁちゃんの家にいるボーダーコリー犬のことです。クッキーと散歩するのは久しぶりだったので、私は行くことにしました。いつもクッキーは山に散歩に行っているのですが、炎天下の中山に行きたくはないなと思い、田んぼ道の方へ行くことにしました。おばぁちゃんの家の周辺はあまりくわしくないので、とりあえずクッキーが行く方向に歩き始めました。太陽の光がギラギラと照りつけ、たくさんのセミがせいいっぱい鳴いている田んぼ道を歩き続けました。

やがて、私も犬も少しバテ気味になってきたとき、少し涼しい風が吹いてきました。風が吹いてきた方

には、大きな橋があったので行ってみました。橋の下にはとても大きくきれいな川がありました。とにかく、その川は素敵で、橋の上から見ても下にある石が透けていて透明感のある水でした。私はあまりにもその川がきれいだったので、少しだけでもいいから水にさわりたくなりました。「きっと冷たくて気持ちいいんだろうな」そう思いながら、川に下りるための道をクッキーと探しましたが、なかなか見つける事が出来ませんでした。私は川に一旦さよならを言って家に帰ることにしました。

家に着くと私はすぐさま、おばぁちゃんに、

「えらい美しい川があったけど、どうしたら川におりれるとね?」と尋ねました。すると、おばぁちゃんは「もう、あの川はだいぶ前から下りれんごとなっとるよ。お父さんたちが小さい頃はよく泳ぎよったばってんね」と言いました。それを聞いて私は、「お父さんなら知っているかも」と思い、父に聞いてみました。父は、

「あの川で泳いでたのは三十年以上も前の事やけんね。行ってみるか?久しぶりに」と言い、私はもち

ろん行きたかったので、父と二人で川へ行きました。

父の古い記憶をたどり、川の近くまでたどり着きましたが、昔とかなり風景が変わっていたようです。

父が小さい頃はなかったという工事現場があり、下りる道はみえませんでした。でも、私はここまで来てあきらめて帰るのも正直くやしかったので、工事現場の奥に行ってみると、たくさんの木がおいしげっている中に、石の階段のようなものがありました。恐る恐るその階段を下りていくと、後からついてきた父が、

「お父さんが小さい頃に使っていた階段だ。まだ、そのまま残ってるんだな…」と言い、二人でその階段を下りてゆくと、ずっしりとした岩々にかこまれた川が広がっていました。

川のせせらぎと、涼しい風が心地よく感じられました。川は奥に行くほど濃い緑で、手前は透きとお

るようでキラキラ光を放っていました。サンダルを脱いでそっと浅瀬に足をつけてみると、氷水のようにつめたかったので、思わずびっくりして一回、足を上げてしまいました。でも、本当に川の水はつめたくて気持ちがよかったです。私が水遊びを楽しんでいると、父がなつかしそうに「この川は、昔といっちょん変わっとらんね…」と言いました。それを聞いて、この川は時代にとり残された、別世界のようだなと

感じました。川は流れているのに全く時代には流されず、周りの姿が変わってしまっても、川だけは凛とした姿でいるのです。

ひぐらしの鳴く田んぼ道を父と二人で歩いて帰りながら、私は、小さい頃の父と毎日のように遊んで

くれた川、三十年間変わらずにいてくれた川を、これからもずっと変わらないように守り続けていきた

いなと思いました。

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