2010年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  文星芸術大学

【特別賞】水って大切!

「えー、今日も行くの」

私はそう言いながら、まだ熱気が残った車内へ乗り込んだ。あいにく今日は部活がない。また例の「水

汲み」に行かなければならない。

我が家には、土曜日に毎週恒例の行事がある。「水汲み」だ。
「水汲み」とはどんなものか。それは、車で一時間ほどの山にある湧き

水から、水を汲んでくることだ。

十二年前、東京から引っ越してきた時、お父さんがきれいな水を飲みたいと探してきたのだ。

その「水汲み」につき合わされると、ろくなことがない。車に二時間も乗らなければいけないし、おま

けに重たい水を車まで運ばなければいけない。そんな土曜日の行事が、我が家からなくなることは決し

てなかった。あの日が来るまでは。

お父さんが珍しく出張で一週間留守にすると言い出したのは、八月中旬のことだった。少し寂しくなる

なと私は思った。でも、一つだけいいことがある。「水汲み」をさぼれるのだ。一週間ぐらい水道水で暮らしたって大丈夫だろう。私はそんな気持ちで、お父さんが出張に行く日を待っていた。

そして、お父さんの出発の日がやってきた。

「水、ちゃんと汲んできてくれよ」

と、お父さんは言った。でも私は、そんな頼みを聞く気などまったくなかった。 あの事件は、お父さんの出張二日目の夕食の時間に起きた。

私は、最初にご飯を口に運んだ。すると、食べた瞬間、いつもと違う感覚が口の中に広がった。よく見

るとつやもない。なぜ?私は、

 

「ご飯、いつもと違う炊き方した?」 と聞いてみた。お母さんは、

「いや、水が変わったからね。あっ」

お母さんは、浄水ではなく普通のシャワーの水を使ったらしい。いつも汲んできた水で調理することに

慣れているせいだろう。

でも、次の日、浄水を使ってもまだ違和感が残った。他の料理も違う味がした。味だけではない。香り

も見た目もいつもと違う。しまいに私は、食欲がなくなってしまった。そんな日が何日も続いた。

私は、お父さんがなぜあの「水汲み」を熱心にやるのかわかった。私は、東京の水道水で暮らしていた

時期を知らない。山の湧き水の料理に慣れていたのだ。お父さんも私と同じことを思い、東京から引っ越してきたのだろう。また、この一週間で、水でこんなにも料理が変わってしまうことを思い知らされた。

でも、この体験で水って大切なのだということを知ることができた。今まで何も考えずに使ってきたけれど、料理の味まで左右してしまうほど、水は重要な役割を担っているのだと、肌で感じることができた。

また、「水汲み」が面倒だと思う日もあるだろう。でもそんな時、この夏の思い出が私の心をきっと変

えてくれると思う。もしかしたらお父さんは、この出張を機に、「水汲み」をいやがっている私に、その大切さを伝えようとしたのかなと、私は密かに思った。

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