2012年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  田宮 なつみ

【特別賞】海のためにできること

それは標本としてそこにいた。僕の家の近くの「竹島水族館」にはたくさんの珍しい生き物がいる。デ

ンキウナギや熱帯魚、カブトガニにオウムガイ。その他にも聞いたことのない生き物もいる。もちろん地元の三河湾の生き物もいるが、それだけは標本だった。その生き物は「ナメクジウオ」と言う。

ナメクジウオは、人を含む脊椎動物の共通の祖先に最も近いと言われ、背骨のある動物への進化の謎

を解く生き物として注目されている。「竹島水族館」の南に見える三河大島は、そのナメクジウオの生息地の北限として国の天然記念物に指定されているが、水族館にその生きた姿はなかった。

なぜなら、ナメクジウオはきれいな海のきれいな砂のきれいな干潟にしか住めないため、環境が悪く

なった三河湾では近年見つかっていないからだ。ナメクジウオだけではない。今ではハマグリも環境がわるくなったせいで、その数を減らしている。僕は標本のナメクジウオを見ながら、このままでは三河湾の他の生き物も、見つからなくなってしまうのではないだろうかと思った。

その後、生きたナメクジウオが見られるとうわさを聞いた「生命の海科学館」に行ってみた。あいに

くナメクジウオは、砂にかくれていて見られなかったが、職員で、ナメクジウオの専門家という人に話

を聞けた。

その人によると、今は三河湾の水は、そこそこきれいらしい。その証拠に大島の近くの竹島で見つけた

タツノオトシゴを見せてくれた。タツノオトシゴはきれいな水にしか住めないのだが、竹島付近ではけっこういるという。

三十年くらい前は、まだ環境に対する意識が浸透しておらず、たくさん生活廃水を出していたらしい。

ひどい話では、染色工場の排水で、川の水が毎日のように変わっていた時もあったという。しかし、今ではもちろんそんなことはなく、タツノオトシゴまでいた。海の状態にいち早く気づき、行動を起した人々がいるということを知り、なんだか胸が熱くなった。

僕に何かできることがないか聞いてみた。水や土を直接にきれいにすることはもちろん難しいが、これ

以上きたなくしないための方法は、食べ物を残さず、なるべく生活廃水をおさえることだと教えてもら

えた。そうすれば汚い水はアサリが、汚い泥はナマコが、分解してきれいにしてくれる。海をきれいにするのは人だけではなく、海の生き物もきれいにしているのだ。

祖母が子供の時の話を聞いたことがある。伊勢湾台風よりも前のこと。大島の水、砂浜はきれいで、

ナメクジウオもたくさんいたという、その証拠に、市の博物館で見た大正時代の大島の写真は、白黒だったがとてもきれいだった。そんな海に戻すため、頑張っている人はたくさんいる。汚すのは簡単だが、戻すのにはその何倍もの時間がいる。

この日、昼ごはんは焼きそばだった。僕は少し苦手な大盛のそれを見て少し考えた。食べ終わった皿に

は何も残さなかった。

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