【ざぶん環境賞】夏の海部川
頭の真上から照りつけてくる太陽が暑い。「もうお昼かな?」そんなことを思いながら竿
を握っている。夏休みが始まって、ずっと楽しみにしていた鮎の友釣りに来てみたけど全然
釣れない。前にアマゴを釣りに来て海部川が好きになった僕は、父の誘いに一発で食いつい
た。そして、なわばりに入って来た侵入者を追い払う、鮎の習性を利用した友釣りにチャレ
ンジしてみたかったのだ。
上流に向かった父が見えなくなってだいぶ経つ。朝のしばらくの間、父におとり鮎のセッ
トの仕方、おとり鮎の操作など一通り教えてもらったが、そう簡単には上手に出来ない。一
応、頑張ってみたけど、おとり鮎は疲れてちっとも泳いでくれない。僕も疲れているし、お
腹は減るし、テンションは下がりっぱなしだ。
しばらくすると、父が上流から帰ってきた。
「釣れた?」
と聞かれた。
「全然ダメ!」
と答える。それより気になるのはお昼ごはんだ。僕が 「お腹減った」
と言うと、父は
「そうそう、お昼にしよう。でも、その前にゴミを拾おう」
と言い出した。父が言うには朝からまわりのゴミが気になっていたらしく、これらを回収し
て気持ちよくご飯を食べようということだ。
さっきまで釣りをしていた周りを探すと、石の間にペットボトル、空き缶、お弁当のパッ
ケージが落ちている。それらを拾っていると悲しくなってきた。少し離れたところには、釣
りの仕掛けが入っていたパッケージが落ちていて、もっと悲しくなった。パッケージには、来
るときに寄って来た釣具屋さんのシールが貼られていた。まるで自分が捨ててしまったよう
な気がしてきた。そうなると釣り人のゴミは僕が回収すべきだと思えた。これでも僕は釣り
人の一員だ。せっかくきれいな川に来ているのに汚してしまうのはもったいない。
周辺のゴミを一通り拾うと、悲しい気持ちからサッパリした気持ちになったから不思議だ。
さあ待望のお昼ご飯。やっぱり川に来て食べるおにぎりはおいしい。まわりのゴミを片付け
たから、なおおいしいのかも知れない。せせらぎの音は心地よく、木陰に入るとそよそよと
風が吹き、森のにおいがしてくる。気持ちが切り替わって、またやる気が出てきた。
少し下流に移動した。新しいおとりをセットして流れの中に放す。父の釣ってきた元気な
鮎は、早い流れなのにグングン泳いでいく。水面がギラギラ反射してまぶしい。その時、青
緑の何かが水面をかすめて飛んで行った。「カワセミ!」すぐにわかった。上流に飛んでいく
カワセミを見ていると、いきなり「ビューンッ!」竿がひったくられた。鮎が掛かったのだ。
頭の中が真っ白になった。ものすごい勢いで引っ張られる。耐えているだけで精一杯だ。どう
したらいいのかわからない。大きな声で 「鮎!鮎!」
と叫んだが、離れて釣っている父には届かない。「なんとかなるだろう」、と開き直ると少し
落ち着いてきた。
水中では二尾の鮎がキラキラと輝いている。竿にしがみついて引っ張っていると、最初よ
り力が弱ってきた。岸寄りの緩い流れに持ってこようと竿を引き寄せた。何度もアミですく
おうとするが、おとり鮎をぶら下げたまま掛かった鮎が走り回る。そのたびにヒヤッとする。
四回目か五回目、近くまで寄って来たところをザブッとすくった。 「やったぁー!」
うれしいけど、腕はブルブル、足はガクガクで動けない。ようやく気が付いた父が駆け寄っ
てきた。
「全部一人でできたな。合格」
なんだか一人前になれた気がした。ひょっとすると川の神様が少しサービスしてくれたのか
もしれない。
今もあの日のことが何度も何度も思い返される。掛かった鮎からハリを外そうとしたら、
プーンとスイカのにおいがしたこと。風がスーっと吹いて、汗をかいたおでこをなでていっ
たこと。見上げたら青い空に、入道雲がモクモクとわき上がっていたこと。そして、透き通っ
た水の中でキラキラ輝いた鮎のことが。


