2004年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  森つくし

【奨励賞】いい体験!

それは十年くらい前の事だった。初めて海水浴に行った。久しぶりの外出なので、私は楽しくて、車の中で泳ぐまねをしていた。 海に来ての感想は、

「とにかくすごい大きい」だった。「大きな水たまり」と言ってもおかしくない。急いで準備体操を自分なりにやって、兄を追い掛けながら海岸へ走った。

あんなに楽しみだったのに、あんなに急いで準備体操をしたのに、いざ水の前に来てみると、少しこわかった。

兄はお父さんと沖の方へ行ってしまったので、私は一人だった。おそるおそる、でも思い切った感じで、水の中に足を入れてみた。

気持ち良い。私はそう思った。さらに体まで入れてみた。そしてどんどん前へ行ってみた。首らへんまで潜ってみると体がぷかりとうきわでういた。もう足は届かない。私は体をうつぶせにして、ばたばたと足をふってみた。水しぶきが冷たくて私は夢中になって足をふった。浜の方を見るとお母さんが私に手をふってくれた。

私はとてもうれしくて、大きく両手をふった。

浜に戻ってみんなでお昼を食べた。私が戻ってきた少し後に兄とお父さんが戻ってきた。兄は自慢するように沖の事を話してくれた。テトラポットに登ってみたと言う。兄はとても良さげに話していたので、わたしはそこに行ってみたいなぁと思った。そこで私はお昼を食べた後、一人でこっそり沖へ行ってみようと決心した。

しかしそれが大きな間違いだった。

親の見ていないスキを狙って、私はうきわをつけて海岸を走った。最初とは違ってずんずんと海に入り、あっという間に足が届かなくなった。バシャバシャと足をふりまくって、前へ前へと進んでいった。足が疲れてまたぷかぷかと浮いていた時に事件は起きた。うきわをつかんでいるぬれた両手がつるりとうきわから離れたのだ。自分の体がうきわから離れるのを私はしっかりと感じていた。

息ができなくなって私は海水の中をもがいているだけだった。でもそれは大きな間違いで私の体は沈んでいくだけだった。

もうだめだ、と思って目をつぶる瞬間、黒い影が見えたような気がした。

息ができるようになって目を開けたら、私の目の前にお父さんがいた。お父さんが気づいて、私を助けてくれたのだ。

岸辺につくと、私はすぐにお母さんの所へ走って大泣きした。海水が目にしみて涙が止まらなかった。おばあちゃんがタオルで私の顔をふいてくれた。でも私は泣きやまなかった。

それからだろう。私が水嫌いになったのは。お母さんがプールを習えと言っても私は断固拒否した事もあった。でも結局習って、それがけっこう楽しくてずぅっと続けていた。 泳げるようになって今思うと

「あの時ってそんなにこわかったっけ?」

と感じることもある。けどそれは今私が泳げるからだろうと思う。

溺れた時は夢中でもがいているばかりだった。今の私ならまずうくためにじっとするだろう。

なんであの時落ちつけなかったのだろうと思い出して少しはずかしかった。でもそのおかげで次は落ちつけばいいと理解することができた。

だからこの体験は私にとって「いい体験」なのだ!死にかけたけど。

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