2019年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  アマヤギドウ ジュン

【ざぶん環境賞】ホタルが照らす水の恵み

「ホタルがいるよ!」

と、夜、祖母から電話があった。

「どこにいるの?」

と聞くと、家の近くにある公園だった。生まれてからその公園でホタルを見たことのない僕は、信じられない気持ちで公園に走った。

そこで見た光景に、僕は言葉が出なかった。小さい頃、毎日のように遊んでいた公園の用水路の近くに、たくさんのホタルが飛び交っていた。その美しさに心をうばわれた。

「すごいでしょ!」

と、はしゃぐ祖母。祖母のこんな表情を見るのは初めてだ。しかし、はしゃいでいるのは祖母だけではない。

「あっ、ここにもいた!」

と、ホタルを追いかけている人。

「いやあ、子供の時以来ですよ」

「ホタルが戻ってくるとは、思いませんでしたねえ」

と、思い出を語り出す人。近所の人達の思い出を、ホタルの淡い光が、明るく照らしていた。

もともとこの用水路は、自然にできたものではない。江戸時代の初めに上杉米沢藩が作った、西根堰と呼ばれるものである。僕達の町には、阿武隈川という大きな川が流れているが、川より高い場所にある僕達の地区には、阿武隈川から水を引くことはできない。そこで、遠く離れた産が沢川の支流の摺上川から水を引いてきた。

四年生の時に、西根堰を取水口から見学したことがある。機械も測量技術もあまりない時代に、自然の川から水の恵みを受けようとした先人の知恵が、さまざまなところにちりばめられていて、感動した。

それから四百年以上たった今も、僕達の地区は、西根堰の水の恵みを受け、米、桃、リンゴと農業を発展させてきた。皇室に献上桃を贈っているのも、王林というリンゴの発祥地も僕達の町である。

それなのに、この半世紀、僕達は便利な生活を手に入れるのと同時に、自然からの恩をあだで返すような生活を送ってしまった。川には、生活排水が流れた。

そこで、以前のようにホタルが飛び交う美しい川を取り戻そうと、僕達の町に、ホタル保存会が発足した。僕は小学生の頃、ホタル保存会の人と一緒に、ホタルの幼虫を放流したり、川の環境を守るための清掃活動をしたりしたことがある。清掃活動では、空き缶やペットボトル、たばこ、ゴミなどが散乱していた。ホタル保存会の人から、人間が壊した生態系を元に戻すことの必要性、今ある生態系に必要以上に手を加えてもいけない難しさなどを聞き、川の環境を守る責任を感じたことを思い出した。

みんなの「ホタルが飛び交う美しい川を取り戻そう」という意識の高まりが、再び僕の家の近くの公園にホタルを呼び出し、みんなに笑顔をくれた。ホタルの優しく淡い光が、僕達を正しい道に、力強く導いてくれたのだと思った。なつかしい水の流れを聞きながら。

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