2004年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  百鬼丸

【準ざぶん大賞】水の精ウォータ君

真夏の昼時に、ある兄弟が冷たい水を飲もうと、コップに水をくんだ。それはとってもお

いしい水だった。

そして驚くことに兄が飲んだコップの底に残った最後の一しずくは水の精の「ウォータ君」

だった。

兄がコップを流し台に置くと、ママがコップを洗い、ウォータ君は洗剤といっしょに排水

口に流れていった。排水口には、洗剤やしょう油色になった水、中には油も混ざっていて、と

てもおかしなにおいまでした。ウォータ君は気が遠くなりそうになった。

「こんなことなら、兄ちゃんに飲まれちゃった方がよかったな」 ひとりでそんなことをつぶやいてみる。

気が付くと、ウォータ君はある川に流されていた。その川はとってもきれいで小さな子供

がたくさん遊んでいた。

ウォータ君は遊んでいる子供に何度もふまれたり、水鉄砲から吹き出されたり、石ころに

ぶつかったり、水草になでられたりしながら川を楽しんでいた。すると、子供がメダカを見

つけ、バケツでつかまえようとしはじめ、そしてメダカも一生けん命逃げていた。ウォータ

君は「メダカも案外大変なんだな」と思った。

ところが、ウォータ君の目の前に逃げていたメダカが現われ、その瞬間子供が持っていた

バケツにメダカといっしょにヒョイッとつかまえられてしまった。バケツの中は、とっても

せまくて、空も丸く小さく広がるばかりだった。

しばらく丸い空をながめていたら、まっ黒な鼻の犬がニュッと顔を出し、ピチャピチャ水

を飲み始めた。ウォータ君は、犬の舌にはじかれて、川原の石に落っこちた。石は、まるでフ

ライパンみたいに熱かった。一日中お陽様に照らされて、いつのまにかじりじり焼かれてい

たのだ。その一瞬の間にウォータ君は蒸発してしまったらしい。

ウォータ君は空気中を上へ上へとまい上がりながら川を越え、町にさしかかったとき、ゴ

ミ焼却炉のもくもくしたけむりに取り囲まれた。これがうわさのダイオキシンらしい。

「苦しい空気だな」

と思う間もなく、強い風にあおられて、山の方へ運ばれた。

ウォータ君は、雲になっていた。雲は、たくさんのウォータ君の仲間が手をつないで大き

く高く広がっていた。地球の空のあっちこっちに、ウォータ君の仲間が手をつないだ雲は、た

くさんあって、そして雨になって地上に降った。

ウォータ君は、今、どこにいるんだろう。あの山の、あの滝のあの流れの中かな、さっき降っ

た夕立の中かな、それとも君の、そのコップの中かな。

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