2006年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  原田 維夫

【準ざぶん大賞】最後の水

七月十七日、海の日に、おばあちゃんが子供のようにかわいがっていた、りなちゃんとい

う犬が、天国に行ってしまいました。

生まれつき後ろの足が悪くて、その足を立てる事ができませんでしたが、上手に三本の足

で元気に飛び回っていたりなちゃんは、ぼくが生まれる前におばあちゃんのお家にやって来

ました。とても小さくて、かわいいぬいぐるみのようなりなちゃん。足が悪くて、おばあち

ゃん犬だったので、散歩も最近は、おばあちゃんがだっこしていました。りなちゃんは、い

つ見てもお昼ねをしていましたが、おばあちゃんが帰って来ると、とてもうれしそうだった

ので、きっと、おばあちゃんの事を、お母さんだと思っていたとぼくは思います。

そんなとても元気なりなちゃんが、急に大好きなご飯を食べないようになりました。暑い

日が続いて食べたくないんだなと、おばあちゃんは思っていたそうです。

おばあちゃんは、りなちゃんに食べてもらおうと、大好きな物を作ってあげましたが、い

っこうに食べませんでした。みんなが心配していたら、りなちゃんの息がだんだん苦しそう

な息にかわってきました。呼吸をするのがとても苦しそうで、すぐにおばあちゃんは、りな

ちゃんを病院につれて行きました。病院の先生が、

「もう痛みを少しやわらげてあげることしかできません。もう良くなる事はないと思います」

と言って、痛み止めのちゅうしゃをしてくれたそうです。おばあちゃんは、じっとおとな

しく、つらそうにしているりなちゃんを見て、もしかしたらもうだめということなのかと思

うと、なみだが出てきたそうです。そのちゅうしゃのおかげで帰りは少し楽になったのか、

おばあちゃんのひざの上で、とても幸せそうな顔で、ねむっていたそうです。

「りなちゃん」

と声をかけると、まるで人間のように、目にたくさんのなみだをためて、とてもかなしそ

うな顔をしていたそうです。ぼくは、りなちゃんも、おばあちゃんと同じくらいさみしくて

たまらなかったんだと思います。

病院から帰ったその夜、りなちゃんの呼吸は、もっと苦しそうに、つらそうになりました。

おばあちゃんは、泣きながらりなちゃんに声をかけて、ずっと体をなぜていてあげたそうで

す。つらそうなりなちゃんがとつぜん立ち上がり、いつもの水を入れる容器から、いっきに

たくさんの水を飲んだので、おばあちゃんはびっくりしたそうです。

りなちゃんは生きていたかったんだと思います。夜中を過ぎたころから、りなちゃんの呼

吸が、聞いているのもつらいくらい苦しそうになってきたそうです。おばあちゃんは、せめ

て水を飲ませてあげたくて、小さなゼリーのスプーンで水を少しすくって、口に運んであげ

たそうです。さっきまでは、自分でがんばって飲めたのに、りなちゃんには、もうその力も

ありませんでした。そして、とうとう海の日の午前三時ぴったりに、ねむるようにりなちゃ

んは、天国に行ってしまいました。

ぼくが朝、りなちゃんを見たときは、お花がたくさんかざっている箱の中に、まるでお昼

ねをしている時のようないつものかわいいりなちゃんでした。天国に行ってしまったりなち

ゃん。おばあちゃんは思い出しては泣いています。そしてぼくに小さなゼリーのスプーンを

見せてくれました。

「これでりなちゃんに最後の水を飲ませたんだよ」

と、おばあちゃんが泣きながら教えてくれました。りなちゃんの最後の水があまりにも少

しで、なみだが出そうでした。

今でもおばあちゃんは毎日、いつもの所に水を置いています。きっとりなちゃんは、毎日

その水を飲みに来ていると思いました。

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