【準ざぶん大賞】海部川の思い出
去年のゴールデンウィーク、徳島県の南の方にある海部川に釣りに行った。ねらいはアマゴだ。
朝五時は真っ暗で、とても眠たく、本当はこんな事には参加したくなかった。というのも、僕は遠出が苦手で無理やり参加させられたので。それは、我が家は代々続いてきた釣り師の 家系だからだ。
海部川に着いた頃にはすっかり明るくなって、川はすごくきれいで底まですき通っていて、緑に囲まれ、空気がおいしかった。着替えが終わると、早速釣り開始だ。ねらいのアマゴは とてもおく病なので物音を立てたり、魚に近すぎたりすると釣れなくなってしまう。用心深 く魚のいるポイントに近づかなくてはいけない。ゴロゴロした石ばかりの川原で、そんな事 ができるのだろうか。
父から釣り方を教えてもらうが釣れない。竿をうまく操ってエサの付いた仕掛けを思ったところに投げられない。たとえ投入できても、その後、うまく川の流れに仕掛けを乗せてエ サを流さないと、アマゴは食いついてくれない。
午前中は、仕掛けを投げる、川の流れに乗せる。その練習をくり返し、すっかりくたびれた。昼になってご飯を食べた。おにぎりがとてもおいしく感じられた。なぜだろう。空気が 美味しいからかもしれない。景色がいいからかもしれない。ご飯を食べると、つかれが少し取れた気がした。
父がとっておきの場所に連れて行ってくれた。そこは大きな石が二つ並んだ間から水が流れ落ち、滝のようになっていて、なんだか釣れそうな気がした。早速、仕掛けを投げてみた が、思った場所に飛ばなかった。二回目、今回は思ったところに飛んでいった。仕掛けが着水 してエサが水中に吸い込まれる。釣り糸につけている目印が流れに乗ってソロソロ流れ出し た。
しばらく流れた後、目印がピタッと止まった。父が「合わせろ」と言った。少し竿を持ち上げてみると「ゴン」と手応えがあって、すぐに「グン、グン」と魚の引っ張る力が伝わっ てきた。竿を持ち上げようとしても重くてなかなか持ち上がらない。すき通った水の中で銀 色の魚が暴れている。
ずい分時間が経ったように感じたけど、本当は短かったのかもしれない。父が網ですくってくれたのはアマゴだった。スマートな体型で背中はうす緑、体の側面には群青色の大きな 水玉がきれいに並び、朱色の小さな点々が散りばめられたきれいな魚だ。
「やったー」といううれしさがこみ上げてきた。
その後のことはあまり覚えていない。なんだか体がフワフワしていたような気がする。たぶん、舞い上がっていたのだろう。
今でも目をつむるとあの時の光景や、せせらぎの音がよみがえる。だからまた釣りに行きたいと思う。すき通った水の海部川に。


