2013年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  殿村 栄一

【特別賞】いつの日か

今日は疲れた。身体の節々が悲鳴をあげている。 「身体が泥だらけだ。風呂に入るとしよう」

私が炭鉱で働き始めて三年ほどになる。十八の時に生まれ故郷をはなれ、いらいずっと炭鉱で働いて

きた。しかし、私が故郷をはなれるときはひどいものだった。人類の進化とともに故郷の土地は荒れ果

て、疫病が流行り、息も出来ないほどであった。生まれ育ったこの土地が変わっていく姿を見るに見か

ね、私は故郷をはなれた。

「そういえば、母さん元気にしているかな」

この間届いた手紙では、若者たちの故郷ばなれが深刻になってきているといっていた。私もその一端を

担っているのだから、文句の言いようもない。それにしても先程から甲羅が痛む。元々水の中で暮らしていた者にとって、炭のような重い荷物を運ぶ事は慣れていない。さらに、照りつける日光によって頭の皿がかわき、危うくたおれてしまうところだった。

そう。私は河童である。人類による環境汚染が深刻になり、私たちの家である川は住めたものじゃな

くなった。河童は「術」が使えるので、人間の姿に変身しているが、しょせん、術だ。体に疲れが出る。

「私も炭鉱で働き、環境を害しているのだから、はずかしい限りだな」

人間界で暮らしてみると、水を汚す事は不思議と気にならなくなる。昔は大切にしていた水も最近で

は、シャワーを出しっぱなしにしていることすら気付かなくなった。しかし、この間なんかは天ぷら油を誤ってそのまま排水口に流してしまい、その時はさすがに気が引けた。そういえば数日前、元河童らしい人物とすれちがった。河童はみな耳が少しとがっていて、ちょっとくちびるもとがっているので、すぐ分かるのだ。

「このまま環境汚染が進んだら、人間界にはもっと河童が増えるだろうな」

事実、母が言うように河童の人間界への進出は進んできている。いつの日か、我々河童による人間界

征服も近いのかもしれない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です