2017年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  疋田 友紀

【特別賞】懐かしい潮の匂い

この匂い…急に懐かしい気持ちがわき上がる。私は毎夏必ず訪れる海がある。品川区の大井埠頭であ

る。初めて行ったのは三歳の頃なのでかれこれ十年通ったことになる。そこは目黒区の祖父宅より車で

一時間程にあり祖父の趣味である釣りを楽しむのである。

匂いでその時の記憶や感情が蘇る事を「プルースト効果」と呼ぶという。プルーストとはフランスの

作家マルセル・プルーストのことで、その半生をかけて執筆した大作『失われた時を求めて』の中で語

り手が食した洋菓子の味をきっかけに幼少期の家族の思い出が蘇ることから香り、匂いによって記憶等

が蘇ることを「プルースト効果」と言うようになったらしい。なるほど潮の匂いをかぐと、幼少期の事やら昨年の釣りでの出来事、風景が蘇ってくるのである。

都会にありながら大井埠頭では、ハゼ、シーバス、クロダイと初心者から上級者まで楽しむことがで

きる。この大井には人工干潟もある。ここ百年程の間に埋め立てや護岸工事などでかなりの干潟が失わ

れたという。調べによると、干潟は正に生命の源であり生態系に重要な位置を示す。干潟とは満ち潮時

は水面下にあり潮が引くと軟らかい砂や泥が顔を出す場所を言う。そこは二枚貝に代表される生物が

たくさん居て体中のえらで植物プランクトンをこし取り餌として利用している。そして彼らがとり込む

植物プランクトンの有機物量が多くなればなる程その量はおさえられ底泥への供給も小さくなる。つま

りこのことは海水の貧酸素化を抑制する働きとなり「水を健康に保つ」=干潟の働きなのだという。ま

た干潟は浅く大気から酸素が充分供給される。したがって干潟に沢山の生物がひしめきあっても酸素が

不足することはない。結果干潟は内湾の海底に比べて高い浄化能力を持つ。(国立環境研究所・環境儀

より抜粋)

見慣れた釣り場、干潟を知ると、なおさら親しみを覚える。このように毎夏あたり前のように楽しめ

るのも海の恵みがあってこそなのだ。しかしながら前述の通りこの百年あまりの間かなりの干潟が減っ

ていること…確かに来る途中、「あの建物は前からあったかな…?」と気づくことも多く、さらに二〇

二〇年東京オリンピックを控え(詳細は分からないが)ますます埋め立てが進むのではないかと少し不

安にもなる。

見渡せば釣りを楽しんでいる家族連れも多い。私のように潮の匂いを感じて懐かしく思ったり、思い

出に浸る子どもも沢山いるのではないだろうか。どうかこの生命豊かな干潟、もっと言うと海に囲まれ

た島国日本のすばらしい環境を私達の世代だけではなく次の世代へひきついでいきたいと改めて強く

思った。

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