【特別賞】サンゴの願い
僕は、ここの海をよく知っている。だって、生まれてからずっと住んでいるから。これからも、住ん
でいたいから、ここの海を助けようとしている人間が僕は大好きだ。
数年前、ここの海にカラフルな魚がたくさんいて、暖かくて、何より澄んでいる海だった。それなの
に、いつからか水中に、黒い液体があったり、水面に赤い絨毯のようなものが浮かぶようになった。魚
には住処を失うどころの話でなく、死んでしまうものもいた。僕たち、サンゴの餌も減っていった。
「どうして人間は海を汚していくの?海は平気なの?」
「人間は自分たちの生活を豊かにすることに貪欲なだけだろ。そうしようと行動しているなかで、海を
汚していることに、気付こうとしていなかった」
僕の兄は、僕の問いに対して、こう答えた。僕は、どす黒い怒りも覚えたけれど、それよりも、海の
色のような悲しさが胸いっぱいに広がった。兄は僕の一番知りたい問いの答えを返してくれなかった。
だから、不安になってしまったんだ。このまま、「海が死んでしまう」のかと思って。もう、美しい海
やサンゴ、魚たちを観に来る人がいなくなってしまうじゃないかって。
僕たちの会話から、日がたったある日。この日の海は静まりかえっていた。サンゴは褐虫藻という餌
が無くなってきて、最悪、死んでしまうものもいるし、サンゴを餌にしている魚たちも減っていった。
サンゴの僕にとっては、そういう種の魚が減ることを喜ぶべきなんだろうけど、全然、喜びがない。僕
は、カラフルな魚がたくさんいる海が好きなんだ。だから、喜べるはずがなかった。海は、どんどん汚
くなっていった。そこから、海の生き物の悲鳴が、怒りが、人間には届かないのだろうか。「海が死ん
でいっている」ことに気づいているんでしょ?気づいているくせして、改善策がわからないから、汚
い海を清浄したくないから、海を助けようとしていないんだ。僕は、もう見捨てられたような気分だっ
た。このまま海の底に沈んでいきたかった。もう、悲しそうな海を見ていたくなかったから。
さらに日がたって現在。人間に「見捨てられた」と、思って悲しんでいたことも過去にあったけれど、
優しい人間たちが海を助けようとしていることに気づいてから、そんな思いは海の底に沈んだ。僕は、
恥ずかしいことに、人間は自分勝手な生き物だと思い込んでいた。だから、優しくて、「海を元気にす
る」と、行動してくれる人間に触れて、僕の心の底から感謝の思いが溢れ出た。すると、海が、力なく
だけど、笑ったように波を打った。
僕は、人間にこれだけは覚えていて欲しい。水が汚くなることで、死んでしまう海の生き物がいるの
だと。人間と海の生き物は共存しているのだと。


