2015年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  菊地 ゆみ

【特別賞】サンゴの願い

僕は、ここの海をよく知っている。だって、生まれてからずっと住んでいるから。これからも、住ん

でいたいから、ここの海を助けようとしている人間が僕は大好きだ。

数年前、ここの海にカラフルな魚がたくさんいて、暖かくて、何より澄んでいる海だった。それなの

に、いつからか水中に、黒い液体があったり、水面に赤い絨毯のようなものが浮かぶようになった。魚

には住処を失うどころの話でなく、死んでしまうものもいた。僕たち、サンゴの餌も減っていった。

「どうして人間は海を汚していくの?海は平気なの?」

「人間は自分たちの生活を豊かにすることに貪欲なだけだろ。そうしようと行動しているなかで、海を

汚していることに、気付こうとしていなかった」

僕の兄は、僕の問いに対して、こう答えた。僕は、どす黒い怒りも覚えたけれど、それよりも、海の

色のような悲しさが胸いっぱいに広がった。兄は僕の一番知りたい問いの答えを返してくれなかった。

だから、不安になってしまったんだ。このまま、「海が死んでしまう」のかと思って。もう、美しい海

やサンゴ、魚たちを観に来る人がいなくなってしまうじゃないかって。

僕たちの会話から、日がたったある日。この日の海は静まりかえっていた。サンゴは褐虫藻という餌

が無くなってきて、最悪、死んでしまうものもいるし、サンゴを餌にしている魚たちも減っていった。

サンゴの僕にとっては、そういう種の魚が減ることを喜ぶべきなんだろうけど、全然、喜びがない。僕

は、カラフルな魚がたくさんいる海が好きなんだ。だから、喜べるはずがなかった。海は、どんどん汚

くなっていった。そこから、海の生き物の悲鳴が、怒りが、人間には届かないのだろうか。「海が死ん

でいっている」ことに気づいているんでしょ?気づいているくせして、改善策がわからないから、汚

 

い海を清浄したくないから、海を助けようとしていないんだ。僕は、もう見捨てられたような気分だっ

た。このまま海の底に沈んでいきたかった。もう、悲しそうな海を見ていたくなかったから。

さらに日がたって現在。人間に「見捨てられた」と、思って悲しんでいたことも過去にあったけれど、

優しい人間たちが海を助けようとしていることに気づいてから、そんな思いは海の底に沈んだ。僕は、

恥ずかしいことに、人間は自分勝手な生き物だと思い込んでいた。だから、優しくて、「海を元気にす

る」と、行動してくれる人間に触れて、僕の心の底から感謝の思いが溢れ出た。すると、海が、力なく

だけど、笑ったように波を打った。

僕は、人間にこれだけは覚えていて欲しい。水が汚くなることで、死んでしまう海の生き物がいるの

だと。人間と海の生き物は共存しているのだと。

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