2018年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  川平 美緒

【特別賞】がまんの水

僕は小学一年生の夏、生まれつき患っていた心臓の手術をした。

付き添いだったお母さんが今でも話してくれるのは、術後の水分制限の辛さのことだ。一度心臓を止めて、人工心肺装置で血液を循環させており、心臓に負担になるため術後すぐには水分を摂ってはいけないことになっていた。

全身麻酔が切れて意識が戻った僕が、面会に来たお母さんに初めに話した言葉は「お水ほしい…」だったそうだ。

けれども水分制限により、すぐに飲み物を飲むことはできない。酸素マスク越しにか細い声で「喉が渇いたよう」と泣かれて、お母さんも可哀想で涙が止まらなかったと教えてくれた。

お母さんは耐えきれず、看護師さんにどうにかしてほしいと相談したところ、看護師さんが大きめの綿棒をもってきて水に浸して、僕のほっぺの内側を濡らしてくれた。

「今はこれしかしてあげられないの、ごめんね」と笑顔の看護師さんも目を潤ませていたそうだ。

二日目から決められた僅かな量を飲むために、色んな種類の飲み物を準備して僕に飲みたい物を選ばせたそうだ。もっと飲みたいと言う子に飲ませることができないのも辛かったと教えてくれた。

それから退院までの一週間少しずつ摂取しても良い量も増えていき、予後も順調で退院前日には水分の摂取が無制限となった。

好きな時に好きなだけ好きなものが飲めるのは幸せなことだねとお母さんは話したそうだ。

僕自身当時の記憶は曖昧で、忘れてしまっていることがほとんどだけれど、お母さんからその時の話を聞く度に、胸が少しきゅっとなる気がする。

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