2018年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  松江 比佐子

【特別賞】小川の源流を追って

僕は住宅地をひたすらペダルをこぎ続けていた。先へ先へと急ぐ気持ちで、スピードはいつもより速い。早朝のラインニングをしている人たちを気にしながら、僕はこの小川の先がどうなっているのか知りたくてたまらなかった。

今朝、何となく家の前の小川をみると、水かさが増していることに気づいた。ここに引越ししてきてから一年、新しい環境に慣れるのに精一杯で(同じ市内での引越しといっても、僕にとっては大事件だ)、小川には興味も持てなかったが、今朝は危険防止のフェンス越しにさらさらとした水の流れを眺めてみた。やはりいつも通り、茶色い水が流れているだけで面白いところはない。もしかすると、今日は魚でも見つかるかもしれない、と目を凝らしてみるが、にごった水では生き物の姿を見ることはできなかった。ふと、

「終点はどうなっているのだろう?」

と思った。僕は思い立つとすぐに、自転車に飛び乗って、上流へ向かって走り出していた。

自転車のギアを一段あげるたびに、息があがる。小川を見失わないようにしながら、どんどん加速していく。自転車をこぎながら、いつの間にか、先週あった卓球大会のことを考えていた。卓球を始めてまだ四ヵ月しか経っていないが、僕は試合を勝ち進んでいく自信があった。部活のほかにクラブチームにも入り、さらに毎日、自主練もしている。準備は万全だったはずが、まさかの二回戦敗退。その翌日の、県南の選抜者だけの大会では、誰にも歯が立たなかった。もちろん、小学生の頃から卓球を始めている選手たちに負けてしまうのは当然のことかもしれないが、あの時ミスをしなければとか、もっと体力があったらとか、思い浮かぶのは自分の駄目な点ばかりだ。このまま二回戦止まりだったらどうしよう。不安な気持ちを振り払うように、僕は早く単調な住宅地を抜け出したくてペダルをこぎ続けた。

大通りを越えると、小川は時々トンネルにもぐるようになった。何となく小川を見つけて、住宅地を抜け、砂利道を走り、うっそうとしたクヌギの森を抜けると、ぱっと開けた田んぼに出た。住宅地のむっとする暑さと比べて、ひんやりとした風が吹いている。小川から田んぼへ水をひいているようだ。用水路だったのか。小川は枝分かれして、僕がここまで自転車で来たよりも、何十倍もの距離を移動しているのだろう。僕も地道に努力するしかないか。

金色の稲が揺れているのを見ていると、汗が乾いてきた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です