2003年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  市村 淳一

【ざぶん文化賞】海-我が家の台所ー

「ただいまー。」
(あー、このにおい!)
「さざえをゆでとるがや。」
「わー、海の匂いがするねぇ。」
私の顔が思わず、ほころんでしまいます。
「お向いさんからの、おすそわけよ。」
と、母は大鍋のお湯をきっています。白い湯気をあげながら、さざえ達は大鍋の中で、食卓へ上る出番を待っていました。
  近所は、船員や漁師を仕事にする家が大変多く、我が家は、海とは無縁の兼業農家です。けれども、我が家の食卓には、いつでも四季折々の海の幸が並んでいます。さざえ、ヅメ、しただみ、蟹、蛸、いか、あじやはちめなどの魚
や、色々な海藻が、どこからともなく集まってきては、食卓をにぎわせてくれます。
「ありがたいよねぇ。海がこんなに近くにあるお陰で、毎日のように新鮮な海のもんが食べられて……。」
我が家はみんな、海のものが大好きなので、焼き肉やステーキより、焼き魚の方が食が進み、会話もはずみます。我が家にとっては、能登の海は、家族団らんの台所なのです。
  私は小学生の時、生まれて初めて海に潜りました。自分の手で初めて、さざえを採った時の感動と、海の中の美しさと、そして何より、恐さを感じたことを、今でも憶えています。その頃からか、海は私にとって、何か特別なも
のとなっていたように思います。だから、食卓に海の幸が並んでいると、私も海へ行きたくなりますが、毎日が忙しく、なかなか行けないので、
(海へ行って、泳いだつもり)
と思いながら、さざえや、魚を食べて海を感じています。
  我が家は、海の近くに一枚、田んぼがあります。田植えと稲刈りの時には、母と一緒に海へと続くその田んぼ道を歩きます。稲刈りの時などは、暑さの中での作業にバテている私に、
「ガンバッテ……」
と、応援してくれてるかのように海からの潮風が心地よく、疲れた私を癒してくれます。
春の海の穏やかさ。夏の海のにぎやかさ。秋の海の静寂さ。冬の海の厳しさ。四季折々の表情を持つ能登の海。私にとっては、父であり、母であり、家族です。海を眺めていると、その大きさに心が洗われ、嫌なことも吹っ飛ん
でしまいます。海もまた、家族と共に私を育ててくれるように思います。
海、それは我が家の台所。今日も、また、どんな海の幸が、食卓をにぎわせてくれるのか、とても楽しみです。
  海の恵みに、感謝しつつ、合掌!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です