【特別賞】お父さんの大作戦
六月のある日、お父さんが
「沖縄に行って、イルカにお母さんを治してもらおう。イルカに元気をもらおう」
と、突然言い出した。
それは、夏休みの家族旅行というよりも、お母さんが五月に手術をしてから、体が思うよ
うに動かないといって、落ちこんでいたからだ。
お父さんの言葉を聞いたとき、ぼくは(へえっ。イルカにそんなことができるの)と思っ
たし、お母さんも
「私、旅行なんて無理だと思う」 と言って、乗り気ではなかった。
しかし、お父さんだけは、真けんで、自信たっぷりで準備に張り切っていた。
八月、待ちに待ったイルカに合う日がやって来た。前に、水族館で軽くさわったことが
あったが、一緒に泳ぐのは初めてなので、うれしいやら、でも、こわいやらで、ドキドキし
た。
お父さん、お母さんとぼくの他にも、家族がいて、一緒のグループになった。
インストラクターのお兄さんが、
「背中をゴシゴシなでてあげると、アカが出ますよ。みなさん、こすって下さい」
と言ったので、ぼくはチラッとお母さんを見た。もしかしたら、お母さんはこわがっている
かもしれないと思ったからだ。
でも、そんな心配は無用だった。 「かわいい。かわいい。本当にアカが出る」
と、とてもうれしそうに背中をなでていた。イルカも気持ちよさそうにキャキャと鳴いた。
これは、人間とイルカのあいさつなのだそうだ。
いよいよイルカの背びれにつかまって泳ぐときが来た。実を言うと、ぼくは、このとき、
少しこわかったのだ。ぼくの前の二年生の男の子が 「ぼく、こわいよう」と、心配そうに言
うので、つられて不安になったのだ。 そのとき、お母さんが、
「おばちゃんだって泳ぐんだから、大丈夫よ。あんたたちは軽いから、イルカも楽ちんよ」
と、ケラケラ笑いながら言ったので、ぼくと男の子は勇気がわいて出て、イルカの背びれに
つかまって、無事、コースを一周することができた。
みんな順番に泳いだが、なんと、お母さんは、グループの中で一番上手に泳いだのだ。病
気になる前の元気なお母さんがいた。
ぼくは、うれしくなって、イルカくんに、 「ありがとう」
と言って頭をなでた。イルカくんは、水面から鼻を上げて、クルクル回った。
沖縄の青い海とイルカくんのおかげで、お母さんはすっかり元気を取り戻した。
お父さんの作戦は大成功だった。


