2013年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  中村 基克

【特別賞】「水」を運ぶ人

八月十一日の石川県西部陸上競技場。私はスタンドで双眼鏡をのぞきこんでいました。その先では日本

フットボールリーグ所属のツエーゲン金沢の選手たちがボールを蹴っています。この日は、第二十四節の藤枝MYFC戦。金沢のホームゲーム、負けなしの記録更新がかかる大事な一戦、何としても負けられません。私は六月下旬からホームゲームをかかさず見に来ているので、勝利にとても期待していました。

結果は前半に一点、後半に三点をとって四対一で金沢の圧勝。十三戦負けなしと記録を伸ばしました。

試合前はいつも、クーラーボックスが乗った台車を押しながら、選手と同じ、それ以上に忙しそうに

走っている人がいます。ツエーゲン金沢の主務・新木さんです。

新木さんがピッチの周りを走って並べていたもの、それは「水」です。選手が試合中に飲むドリンク

は、水でなければならないそうです。水以外の飲料は芝を痛めてしまうからです。その水は選手が顔に

かけたり、怪我をしたところにかけることがあります。気温が高くなると熱中症対策として、給水タイ

ムがとられることもあります。選手たちが飲む量が多くなってくるので、主務は何度も新しいものに取

りかえるために走っています。「水」はのどの渇きをいやし、怪我の痛みをやわらげ、頭を冷やしてくれます。

私は六月下旬に三日間、ツエーゲン金沢でキャリア体験をしました。ツエーゲン金沢では職員が育成

普及や広報、運営などに分かれています。しかし、人数が少ないので一人がいくつもの役割をかけもちしています。

一日目はチームの仕組みを教えていただきました。試合会場に提出する申請書を書いたり、選手がプ

ロデュースしたTシャツの枚数を数えたりと、事務所の中で細かい作業をしました。

二日目は育成普及の方々と保育園に出向き、園児とサッカーをしました。体を動かす楽しさや達成感

などを感じ、人間性や社会性を育むのが目的です。チームにとって「地域貢献」はとても大切です。み

んながツエーゲンに興味を持ってくれて良かったです。

最終日にはチームのツイッターで情報発信をするため、練習を見学しました。今までもスタジアムで

サッカーを見てきたけれど、ボールを蹴る音とキーパーがパンチングした音が思っていた以上に大きく、圧倒されました。選手が芝の上をすべるシュウッという音とスピードにもドキドキしました。そこでも新木さんは練習に使うビブスを運んだり、ドリンクを運んだりと忙しそうにしていました。午前中にもかかわらず気温が高く、選手達は何度も新木さんの準備したドリンクを手に取っていました。

新木さんが「水」を運ぶのは選手のためです。選手が練習するのは試合に勝つためです。職員もそれ

ぞれがチームのために走りまわり、「水」を運んでいます。三日間の体験の中で、私も同じ目標に向かって「水」を運ぶ人になりたいと思いました。

ツエーゲン金沢は二〇一五年までにJリーグに昇格すると宣言しています。二〇一五年は北陸新幹線が

開通する年です。金沢にたくさんの人々がやって来て、満員になったスタジアムで試合を見るのがとても楽しみです。

私はキャリア体験でお世話になった方々のように、自分が社会に出た時に「水」を運べるような人に

なりたいと思います。

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