【特別賞】奥入瀬の夏…水の妖精と
「いる!確かにここに…」
青森県奥入瀬渓流。まぶしい日差しの照りつける真夏でも、そこだけは不思議なくらい、すぅっと涼
しい空気につつまれている。どっしりと根を伸ばす大木のカツラは、ハート形の葉をゆらし、そこかしこに甘いキャラメルのようなにおいをふりまきながら、ぼくをじっと見つめている。
「ツリーホークだ!こんにちは。きみ、とてもおいしそうなにおいだね」
ぼくは、あいさつをした。もう何年ここに立っていたのだろう…さっきの気配はこのカツラだったのか
なぁ?…などと考えながら、黄緑色の木もれ日の美しさに見入っていた時だ。 「ウフフフフ…」
高く歌うような声が聞こえた。カツラのツリーホークはだまって、そこを訪れる人々を優しいまなざし
で見守っている。 「誰なの?」
あたりを見まわしていたぼくの顔に、ピチッとしずくがあたった。小さな滝!岩のすきまからの湧水
が流れ落ちている。
「きみたちだったんだね!」
そこにいたのはたくさんの水の妖精。キラキラした目でぼくを見ている。 「ひゃっ!冷たい。気持ちいい」
伸ばしたぼくの手のひらに、ひょんっと乗り、つんっとつついて落ちていく。水の妖精たちはいたずら
好きなんだな…。落ちて行った先には、ザザザッと大きな水音をたてて流れる渓流がある。ぼくは妖精
たちを追いかけて、渓流の流れとともに一緒に走って行った。ときどきぼくにしぶきをかけながら妖精たちは
「ウフフフフ」
といたずら笑顔で話しかけてくる。ふと足を止めると、そこにゆるやかな流れの水場が現れた。ぼくは
くつをぬいで浅瀬に足を入れた。あまりに冷たくて、長くは入っていられないほどだ。妖精たちはぼくの足の指のすき間を、するりと通り抜けては、また「つんつん」と足をつついてくる。冷たいのとくすぐったいのとで、ぼくは思わず、 「もうやめてよぅ!」
と笑いながらさけんだ。しばらく水の妖精たちと遊んだ。とっても気持ちが良かった。清々しい空気と
ひんやり冷たい水の感覚は、今、夏の真っ盛りであることを忘れさせた。水の妖精たちは、数々の滝や
きれいな流れを案内してくれた。
「フフフ…」
ちょっとさみしそうな声。そう。ここで妖精たちとお別れだ。
「今日はきみたちのおかげで、水をたくさん感じることができたよ。ありがとう。また来るね。さようなら」
この夏、ぼくは、水の妖精たちと遊んだ。


