2009年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  未分類,  樋口 健太

【特別賞】おじいちゃんのしじみ

しじみ取りの舟に初めて乗せてもらった 静かな泥の上をすべるように進んでいく 舟におど

ろいてボラがはねる

泥のまん中で舟を止め

長四角い箱形の金あみがついた

ながーいさおを使って泥の底をさぐる 箱のあいている部分に

とがったつめがいっぱいついていて

泥の中のしじみをかきとるのだ

おじいちゃんがさおに力を入れるたびに 舟が右に左に

ゆれるゆれる

舟を囲む波紋が大きく広がっていく

舟をつかむ私の手にも力が入った

おじいちゃんがさおを引き上げると

あみからポチャポチャと

しじみがこぼれ落ちた

「あっもったいない」と私が言うと  

「子どものしじみだからいいんだ」 とおじいちゃん

あみのはばは十二ミリ

それより小さいものは

沼にもどすことになっている

一回で私の両手では持ちき

れないほどの しじみが取れた

あさりのように大きいものもあった おじいちゃんは年間二千キロぐらい

取れるって言っていた

この涸沼でしじみとりができる漁師さんは 二百人以上いる

こんなに取っていなくならないのかなぁ でもこうやっておじいちゃんは 何十年もしじみを取ってきた

取っても取ってもいなくならないしじみ 他の沼や湖にはほとんどいないのに… 涸沼ってすごい

 

涸沼はしじみにとって

大きなゆりかごなんじゃないかな 「しじみは沼をきれいにしてくれるんだ」 とおじいちゃん

持ちつ持たれつの関係なんだね

私は涸沼から

おいしいしじみをもらっている

大なべいっぱいにしじみをにると 塩をちょっといれるだけで

とびきりおいしいしじみ

汁ができるんだ 私は涸沼に何を返せるんだろう

しじみのために何ができるんだろう この作文を書きながらいろいろ考えた

台所では今日取ってきたしじみが 水を入れたボールの中で

チピチピチップチプチプッ

歌っている

涸沼のゆりかごを思い出して

歌っているのかな

しじみと私それぞれに  

しみじみと涸沼を思う夜はふける

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です