【ざぶん文化賞】岩魚の好きな水
「ああ、うまい」
林のおじさんが、コップにすくった水をおいしそうにゴクゴクと飲みました。
ここは北アルプス。太郎平の小屋から薬師沢の小屋に向かう登山道です。登山道を歩いて
いると、所々に水がわき出している所があります。そして、水の行くえを見ると、薬師沢に
流れこみ、さらに黒部川の本流に注いでいるのだと父に教えてもらいました。
僕がここに来るのは三年連続です。父が、「黒部源流の岩魚を愛する会」に入っているの
で、夏休みに全国の仲間と共に活動するのに、一緒に参加させてもらっているのです。
岩魚は冷たくきれいな水にしかすむことのできない魚で、昔はたくさんいたそうですが、
最近は釣り人の増加や環境の悪化などで「まぼろしの魚」と言われるまでに数が減っている
そうです。そこで「岩魚の会」では、黒部川の岩魚が「まぼろしの魚」にならないように、
それまで岩魚のいなかった赤木沢や岩ごけ小谷のような支流にも岩魚を増やそうと、本流で
釣った岩魚を放流しているそうです。
薬師沢の小屋に着いたら、さっそく放流する岩魚を集めるために釣りに行きました。横浜
から参加した榎本さんは、会で一番の名人と言われる人で、一日に百ぴき以上釣ったことも
何度もあるそうですが、「全然釣れないねぇ。昔は八寸くらいのがアベレージで、たくさん
釣れたんだけどねぇ」と、苦戦しています。僕も父と一緒に挑戦しましたが、何回か毛バリ
に出てきた岩魚を、うまく釣ることができませんでした。父は、
「こんなに釣れなくなってしまったからこそ、ちゃんと守っていかないとね」
と、言っていました。
結局、岩魚は五ひきしか集まりませんでしたが、酸素ボンベをつけた「生かしカン」に岩
魚をうつし、放流地点に出発しました。岩魚を交代でかつぎながら、登山道を三時間ほど歩
きます。水の重さを合わせて、約十五キロくらいにもなる「生かしカン」を四百メートルも
高い場所までかつぎ上げるのは大変そうでしたが、僕も負けずに一緒に登りました。
放流地点では、僕も、 「元気で大きくなるんだぞ」
と言いながら、岩魚を放しました。そして、岩魚が元気でくらせるように、きれいな水も
大切にしていかなければと思いました。
見上げると、北アルプスの高い所には、まだ雪が残っています。この水は雪が溶け出した
もので、空気がよごれて雪そのものがよごれた雪だったり、水がわき出してくると中の土が
よごれていると、水はよごれてしまいます。だから、きれいな水を守っていくためには、き
れいな空気やきれいな土など、自然を大切にしていかなければいけないなと考えました。


