2011年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  小林 隆則

【特別賞】海・再発見

 

今年初めての海。毎年行っていた砂浜のビーチではない。大小の岩がゴツゴツと海面から顔を出してい

る。裸足で海に入れば、血だらけになってしまうのではないかと思うような岩場。海の家も簡易トイレも ない。自動販売機だってもちろんない。去年までの「海」のイメージ。それが大きく変わった。

「僕は砂の子。掘って掘って掘りまくる♪」

と歌いながら遊ぶ毎年恒例の海遊び。妹は浮き輪におしりを突っ込んで、浮遊物よろしくプカプカと浮 かんで楽しむ。うっかりすると波に連れられて、母の持つパラソルから遠く離れ、その度に母は青い顔で 追いかける。

「いつ迷子になるかとヒヤヒヤする。砂だらけで後始末も大変なんだから…」

 

 

母は僕達を海へ連れていくことをいつも渋る。

今夏は母の仕事が忙しく、あちこちに連れていってもらうことは無理だった。へとへとになっている母

には、海よりも、体力温存のできるカラオケやプールに連れて行って、とねだる方がいいと考えていた。 それを妹に納得させることが、ちょっぴりだけど親孝行になるんじゃないかなぁと思っていた。

「明日、一緒に海に行きませんか?」

 

僕が生まれる前から親しいという母の友人からのお誘い。僕と同い年の男の子がおり、僕は彼ととても

気が合う。中学生になるとお互いの予定がなかなか合わず、会う機会がめっきり減ってしまったが、彼は 僕の親友だ。

「海に行く=彼に会える」なのだ。僕のささやかな親孝行計画は、一本の電話で簡単に崩れ去った。

「よし十匹!」

 

先端にイカの切り身をつけた針金を持ち、蟹を釣る。本日の「初体験その一」。蟹といっても甲羅が二、三センチの、食べることもできない小さな蟹。昼のおかずにしたいわけではない。捕ることに意義がある。 すばしっこくてなかなかうまくいかない。そのうちコツはつかめてきたが、妹はそのコツが分からずべそ をかく。偶然、蟹の密集地帯を見つけた妹も、捕まえることができるようになって機嫌が良くなる。大き いの、小さいの、すべてが同じなわけではない。

「ウニを捕って来るぞ!」

シュノーケルを借りて、ゴムボートに親友と乗り込む。足が届くような場所にはウニはいない。シュノー ケルで海中をのぞきながら沖へ出る。レンズを通して見える海の中。ゆらゆらと動く水。黒と白の石がま ざりあっていて、美しい庭のようだ。黒いかたまりが二、三個見えてきた。数度の素潜りでなんとか捕獲。 大満足だ。

 

ウニが動く。ゆっくり歩く。よく見ると、歩くときに使っているのは赤っぽい棘。他にも先っぽに吸盤

のような物が付いている棘もある。今まで気づかなかった。気づこうとしなかった。

 

砂浜での穴掘りはできなかった。サンドアートごっこもしなかった。母もまた、海に対するイメージが

変わったようだ。妹はたくさん釣った蟹を元の所に放し、お別れをしていた。浮き輪でプカプカ…はでき なかったけれど、蟹釣りをマスターし、裏が虹色に見える貝殻を拾って、大切に手に持ちご機嫌だ。

 

素敵な一日だった。久しぶりに親友と一日たっぷり過ごせたことももちろんだが、「北海道の海」と仲

良くなった気がした。

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