2008年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  沼田 佳苗

【特別賞】海への輪舞曲

 

僕は港町に住む友人の夢の話を聞いた。御伽噺みたいだろ、とほほ笑む彼の話を、なぜだか真剣に聞

いた。

 

「夢の中で、ある海賊船の船長の気持ちが伝わってきたんだ」

 

私が船長となって三十年。船で旅して二十五年。昔は元気だった仲間達も、今じゃ水に飢えている。初

めてほかの船を追い払った時は、祝杯をあげ喜んだ。あの時から仲間も私も自信が満ち、次々に勝利を

おさめた。

 

周りは海しかない。他の船も島も何もなく、急に孤独感を味わった。人に会いたくなった。

 

水も食料もなくなり、仲間の元気もなくなる。まわりにこんなにきれいな水があるのに飲めない。一度、少しくらい…と思い海水を飲んだことがあるが、喉を潤すどころが、余計に私を苦しめた。

 

二十五年も陸にあがらないと、人との関わり方も忘れてしまうようで、船内で争い事が増える。空腹感

が、余計な手助けをするように激しさを増す。

 

皆、喉も心も乾いてしまったようだ……。そんなことを思っても何もできない私は、なんて情けない船

長なんだ、と何度も自分を責めた。

 

ある日、月のきれいな晩だった。意識がもうろうとする中、私はイスに腰かけ、眠りについた。

 

何もない真っ白な世界が広がっている。現実でない事はすぐわかった。すると、声が聞こえてくる。

「あなたが欲しいのは、喉を潤す水と、心を潤す水、どちらですか?」 船長は、

「私は……」

彼の話はここで終わった。この後、目覚めてしまったらしい。彼は、 「一番知りたいところが聞けなくて残念だったよ」

と言ったが、僕はそれでよかった。知らなくてよかった気がするんだ。

 

港から見える海が青く澄んでいる。たとえ飲めない水だとしても、このきれいな海がなくならないこと
を望んだ。年月を超えて、また夢と現実の境目を超えて。彼の夢の中の船長も、最後は海を見ただろう。

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