【特別賞】海への輪舞曲
僕は港町に住む友人の夢の話を聞いた。御伽噺みたいだろ、とほほ笑む彼の話を、なぜだか真剣に聞
いた。
「夢の中で、ある海賊船の船長の気持ちが伝わってきたんだ」
私が船長となって三十年。船で旅して二十五年。昔は元気だった仲間達も、今じゃ水に飢えている。初
めてほかの船を追い払った時は、祝杯をあげ喜んだ。あの時から仲間も私も自信が満ち、次々に勝利を
おさめた。
周りは海しかない。他の船も島も何もなく、急に孤独感を味わった。人に会いたくなった。
水も食料もなくなり、仲間の元気もなくなる。まわりにこんなにきれいな水があるのに飲めない。一度、少しくらい…と思い海水を飲んだことがあるが、喉を潤すどころが、余計に私を苦しめた。
二十五年も陸にあがらないと、人との関わり方も忘れてしまうようで、船内で争い事が増える。空腹感
が、余計な手助けをするように激しさを増す。
皆、喉も心も乾いてしまったようだ……。そんなことを思っても何もできない私は、なんて情けない船
長なんだ、と何度も自分を責めた。
ある日、月のきれいな晩だった。意識がもうろうとする中、私はイスに腰かけ、眠りについた。
何もない真っ白な世界が広がっている。現実でない事はすぐわかった。すると、声が聞こえてくる。
「あなたが欲しいのは、喉を潤す水と、心を潤す水、どちらですか?」 船長は、
「私は……」
彼の話はここで終わった。この後、目覚めてしまったらしい。彼は、 「一番知りたいところが聞けなくて残念だったよ」
と言ったが、僕はそれでよかった。知らなくてよかった気がするんだ。
港から見える海が青く澄んでいる。たとえ飲めない水だとしても、このきれいな海がなくならないこと
を望んだ。年月を超えて、また夢と現実の境目を超えて。彼の夢の中の船長も、最後は海を見ただろう。


