【奨励賞】ぼくの特別な一日
ぼくの名前は水沢健司小学校五年生。今は夏休みのまっさい中。宿題なんてとっくの前
に終わって、後は遊ぶだけになった。
今日は週に三回のスイミングスクールが終わって、いっしょに習っている輝二とアイスを食
べながら帰っている。すごく暑いから、アイスが美味しくて、すぐなくなってしまった。辺り
を見回してもゴミ箱はない。ずっともってるのが面倒になったから、今通っている橋の下に流
れている川にアイスの袋と棒をポイッと捨てた。 「あっ、だめだよ。川にゴミすてちゃ」 隣で
まだアイスを食べている輝二がいった。 「飲める水があるんだから、いいじゃん」 ぼくはそう言いながら輝二と別れた。
ぼくの家はマンションだ。二年前に引っ越してきたんだ。ぼくはこの五階に住んでいる。
お父さんとお母さんはいつも仕事でいないから、持っているカギでドアを開けて、中に入る。
ふと時計を見ると、十二時三十分をすぎていた。アイスだけじゃさすがにたりないから、カッ
プラーメンにお湯をそそいでふたをした。いつもはピザを頼むけど、なんとなくすぐ食べたかっ
たからだ。
すぐに三分がたって、早速食べ始めた。味は醤油。本当は塩が食べたかったけど、なかっ
たから少し残念だった。あっと言う間に食べおわってしまった。でも、ラーメンの汁がすごく
残っている。
「味が濃いから飲めないや」
そうぼくはつぶやいて、台所の流し台に捨てようとした。 「捨てちゃだめ」
その時、いきなり近くで声がした。ぼくはおどろいて辺りを見回すが、だれもいない。
「そのカップラーメンの汁で、どれだけ川の水が汚れてると思ってるの」
また聞こえた。ぼくは怖くなって、逃げようとしたけど、服がだれかにひっぱられているよう
な気がして後ろを振り向いた。すると、そこにはぼくの手ぐらいの小さな女の子がいた。髪
も服も青色で、しかも緑色の羽までついている。ぼくは夢かと思って自分の頬をつねってみた。
痛かった。
彼女の名前はシズクというらしく、なんと水の妖精らしい。ぼくはまだ信じられなくて、一
応ネジがないか調べようとしたけど、シズクが怒ったからやめた。そもそもロボットだとして
も、自由に動けるはずがないから、信じることにした。
「何で捨てようとしたの?」シズクが怒った口調で聞いてきた。まるでおまわりさんだ。
「捨てたって飲める水があるんだから大丈夫だと思ったから」 ぼくは本当はどうでもいいと思いながら言った。
「大丈夫じゃないわ多分口で言っても分からないと思うから、連れてってあげる」
とシズクが言った途端、目の前が真っ白になった。ぼくは眩しくて、思わず顔をふせた。
目をあけると、そこはさっきまでいた台所じゃなくて、森の中だった。どこの森かは分からな
いけど、すごく涼しくて、空気がとてもおいしい。 「こっちきて」
シズクのいる場所に行ってみると、そこには小さな川があった。でも、透明でスゴク綺麗だ。
太陽の光が反射して、キラキラしている。それに、小さな魚が泳いでいる。こんなに綺麗な川は、
本やテレビでしか見たことがなかった。 「しっかり見たわね?じゃ、次に行くわよ」
シズクがそう言った途端、また目の前が真っ白になった。やっぱりぼくは眩しくて、顔をふせ
た。できれば、目を開けていたかった。
目をあけると、そこはさっきぼくがアイスの袋と棒を捨てた川の上にかかっている橋の上
だった。ぼくはここだろうなと少しは予想をしていたけど、愕然とした。水は緑色とも茶色
ともいえないような汚い色で、全然透き通ってなくて、ゴミが浮いているのが見て分かる。い
つもだったら別になんとも思わないのに、さっきの綺麗な川を見た後だからなのか、すごい
ショックだ。 「まだあるのよ?」
シズクが言うと、今度はぼくの体が宙に浮いた。ぼくはびっくりして周りを見回した。人が
二、三人通っているけど、ぼくが見えないのか、皆素通りしていった。ぼくは何か安心した。
「じゃ、行くわよ」
シズクが言うと、ぼくの体はもっと高く浮いて、ゆっくりと動き出した。ぼくは高い所はあ
んまり好きじゃないけど、別に怖くなかった。その後、たくさんの川を見た。でも、あの山に
流れているような綺麗な川は、一つもなかった。全部あの橋の下に流れているような汚い川ばっ
かりだ。
「確かに、飲める水はあるわ。でも、あの山にあったような川はないでしょ?ここの川は人が
使った水が流れてるからなの。それはしかたがない事なのかもしれないわ。でも、人がもっと、
水に気を使ってくれていれば、ここまで汚くならないと思うわ。ゴミくらいちゃんとゴミ箱に
捨てて、残ったみそ汁とか、あなたがさっき流そうとしたカップラーメンの汁だって、直接流
さないで、キッチンペーパーとかに吸いこませてゴミにして捨ててくれればいいのに。世の中
には川なんてどうでもいいって人もいると思うけど、綺麗な川をこの町で見たいって人もいる
と思うわ。そのためにも一人一人の努力が必要なの」
シズクの話を聞いて、ぼくはさっきやってしまった事、その時の考え方などが、とても恥ずか
しくて、腹立たしく思えてきた。自分のやった事で、川をもっと汚く見せてしまった事、しか
もそんな考え方をして、また同じことをやろうとしてしまった事に。
マンションの前に着くと、ぼくは急いで台所に行き、流し台においてあるカップラーメンの
汁をキッチンペーパーで吸いとって、二つとも分別してゴミ箱に捨てた。
「ぼく、次からは絶対あんな事しない。ゴミを川とかに捨てようとする人がいたら注意する
よ」
ぼくは少し息切れぎみに言った。
「分かってくれてうれしいわ。もっと色々話したい事はあるんだけど、まださっきのあなたみ
たいな人達がいっぱいいるから、お別れしなきゃいけないの」 とシズクは言った。
「うん短い間だったけどありがとう。シズクの事は忘れないよ」 ぼくはシズクのために窓を開けてあげた。
「さようなら」
シズクはそう言って窓から飛んでいった。ぼくはシズクが見えなくなるまでずっと見送った。
その日から、ぼくはゴミをポイ捨てした人や、しようとした人達にちゃんと注意をしている。
友達や親にシズクの言っていた事や自分のやっている事を話した。水の事に少しでも興味を
持ってもらいたい。言っちゃあなんだけど、ぼくみたいな人が増えていくといいなぁと思う。


