2007年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  さぶ さちえ

【ざぶん文化賞】優しい老婆の湖

ある村から、遠く離れた森の中に小さな湖がある。朝は太陽の光を浴び、まるで虹のよう

に、夜は月の光を浴びて黄金のように湖面は光輝いていた。

その湖の周りには、青々とした木々達が生い茂り珍しい植物や動物たちが生きていた。

そんな、美しい湖の近くにその小屋はあった。小屋には、年老いた女が一人住んでいた。

老婆は、真っ黒なマントを頭から深々と被っておりその姿はまるで〝魔女〞のようだった。

その所為か、湖に人が近づくことは無く、その湖はいつしか〝魔女の湖〞と呼ばれるよう

になった。

そんなある日のこと、湖に見慣れ無い少女が現れた。どうやら、少女は薪を拾うために、

森に入って道に迷ってしまったらしい。 少女は、湖と小屋を見付けた途端に

「魔女の湖だっ」

と言って慌てて逃げ帰ろうとした。その時だった、少女の背後から背筋も凍るような低い声

が聞こえたのだ。 「おや、お客さんかい?」

少女が振り返ると、そこには真っ黒なマントを深々と被った老婆がいた。

『魔女だっ』

少女がそう思うと、怯えた声で 「私…その、道に迷ってしまって」 そう言って肩を竦めた。

「そうかい、じゃあうちへお上がり今日はもう遅い。夜も森は、暗く霧も濃くなって危ない、

家へ帰るのは明日の朝におし」

そう魔女は優しい声で言った。

少女は、驚いて暫く返事が出来なかった。

『魔女だなんて言われているのだから、一体どんな恐しい人なのだろう』

そう思っていた少女にとっては、この老婆の言ったことはあまりにも意外なことだったのだ。

結局、少女は〝魔女〞と呼ばれる優しい老婆の小屋に泊らせてもらうことにした。

その日の夜、少女は老婆にとても親切にしてもらった。

次の日の朝、少女は老婆から森の地図を貰い湖を去る前に老婆にこんなことを聞いた。
「ねぇ、お婆さんどうしてこんなに優しいのにそんな魔女のような格好をしているの?そ

れでは、誰もこの湖に近寄ろうとしないよ」

少女がそう言うと、老婆が嬉しそうな顔をして話し出した。

「私がこの格好をしていたら、この森に人は近寄らないだろう?それは、この森や湖が人

に汚されることは無いということでもあるんだよ。だから、私は寂しくなんか無いんだ。そ

れどころか、この森や湖が美しいままで居てくれるのなら私は嬉しいくらいさ」

そう聞いた少女は、みんなに魔女だと恐れられていたはずの老婆は、本当は誰よりも優し

い人なのだと知ったのです。

けれど、少女はそのことを他の人達に言おうとはしませんでした。 美しいあの湖を、守るために。

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