【特別賞】海から学んだこと
「あれ、溺れとるんじゃない」
祖母が言った。びっくりして振り返ると、遠くで手をばたつかせ、もがき、まさに溺れた人、妹の姿
が見えた。
この日、私たち家族は、祖母と一緒に、毎年恒例のお墓参りからの海に来ていた。海があまり好きで
はない私は、少し泳ぐとすぐに海からあがり、のんびり座っていた。海が好きな父と妹は、長い間海に
浮かんでいた。
「いつまで入っとんかねー」 と話していたその時。
「あれ、溺れとるんじゃない」
祖母が言った。びっくりして振り返ると、遠くで手をばたつかせ、もがき、まさに溺れた人、妹の姿
が見えた。していたはずの浮き輪が外れている。一緒に泳いでいた父は違う方を向いていて気付いてい
ない。母が走り出そうとした瞬間、父が妹の方を見た。
「良かった。気付いた」と私はほっとした。父が妹を上に押し上げるまでの数秒間。ほんのわずかの時
間だったのに、とても長く長く感じた。後で父が言っていた。
「足がつかない場所だったから、なかなか近付けなかった。浮き輪を投げても、パニックで目をつぶっ
ていたから、つかまることはなかったと思う」
妹は全く泳げない訳ではない。父までの距離は数メートルだった。妹は、父の所まで浮き輪なしで泳
いでみようとしたらしい。しかし、足がつかない怖さからパニックになったのだろう。そして私がびっ
くりしたことがもう一つある。周りには沢山の人が泳いでいたのに、誰も妹が溺れていることに気付か
なかったのだ。人が多いとか少ないとかは関係ないのだと知った。 「絶対に大丈夫」
なんてことはない。このことを私たち家族は改めて知った。浮き輪をしているからとか、小さい子で
はないからなんて、大丈夫の理由にならない。少しの油断が事故を招くことになる。水の事故は本当に
一瞬のことなのだ。常に危険を予測しながら楽しむことが大切だ。
今回は怖い思いをした妹だけれど、海は怖いものだと思わずに、これからもいつものように元気に楽
しんでほしい。妹の無事を喜び、沢山のことを学んだ今年の夏の出来事。


