【特別賞】井戸の神様
夏休み、田舎のおばあちゃんの家に遊びに行った。おばあちゃんの家で、ぼくは、おばあちゃんの塩 むすびに夢中になった。塩むすびは、熱々で、しょっぱい。家で食べてもそんなにおいしくないのに、 どうしておばあちゃんの家で食べるとあんなにおいしいのだろう?
おばあちゃんは、
「何がそんなにおいしいのかねぇ」
と、にこにこしながらにぎってくれる。そのおいしさに気がついたのは、塩むすびを食べ始めて何日 か後だ。
まず、米がちがう。おばあちゃんの家には田んぼがあって、そこでとれる米は、精米したてだ。そし て、米をたいているのは炊飯器じゃない。ガスで火をつける、ガスがまだ。
最後は水だ。おばあちゃんの家の水は、冷たくてすっごくおいしい。
「井戸水だからだ」
と、おばあちゃんは言った。井戸ってよくホラー映画なんかに出てくる、あれか?
確かに、井戸はあった。石でできていて、けっこうこわい。中をのぞきこんでみると、真っ暗で、 ずーっと底の方で何かがゆらゆらとしている。そーっと石を落としてみると、ぽちゃんと音がした。石 でがっちりふたをしているから大丈夫だと思うけれど、落ちないように気をつけなきゃな、と思った。
ところで、この井戸水はどこから来ているんだ?おばあちゃんに聞くと、目の前の山からだって言 う。
「登ってみるか?」
と言うから、いっしょに登ってみた。わくわくする反面、登りづらいし、草ぼうぼうだし、少しこわ い。おばあちゃんは、おばあちゃんだと思えないほど登るのが速い。
そのうち、さわさわと小さなせせらぎが聞こえ、目の前から水が流れていた。
「滝だっ」
とぼくがさわぐと、
「湧き水だ」
とてい正された。岩のすき間から、水が湧き出ている。雨水が山にたまったものが湧き出してきたも のだ。すくって飲むと、冷たくてすごくおいしい。おばあちゃんの家の水道から出てくるのと同じだ。 水の合間に動くものが見える。カニだ、小さな小さな沢ガニだ。きれいな水の中で一生を過ごせるなん て、なんて幸せ者だろう。
下る時おばあちゃんにそう言うと、湧き水はいつまでも続くわけではないと教えられた。地球の気候 が変わったりすると、かれてしまうそうだ。
「かれてしまったら、もう井戸水は飲めない?」
「そうだねぇ、飲めないねぇ」
とおばあちゃんが言った。『地球温暖化』っていう言葉がぼくの頭をよぎった。きっと、このままで は湧き水はかれてしまう。
山を下ると、井戸で立ち止まったおばあちゃんが、
「ほら、見てごらん」
と井戸を指さした。なんか、石みたいなのが置いてある。
井戸の神様だそうだ。ぼくは神様に手を合わせた。どうか、ぼくが大人になっても井戸の水がかれま せんように。沢ガニたちが幸せにくらしていけますように。ぼくたちも何ができるか考えます。


