2012年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  橋本 貴史

【特別賞】小さな希望

 

春の暖かい日差しの中、魚の親子が川を泳いで上がってきました。

 

流れがゆるやかになったところで、お父さんが、子ども達に静かに話し始めました。

「お前達、よくお聞き。これは、何年も前にお父さんが実際に体験した話なんだよ。お父さんは、必ずこの場所に帰って来なければならなかったんだ。それはね…」

 

大きな川のすぐ側に、川の増水でできた小さな池がありました。池には、小さな魚が一匹だけ。何日も

一人ぼっちだった魚は寂しくて、心細い日を過ごしていました。

 

ある日、また大雨が降り、川の増水で投げ出された大きな魚が、この池に飛び込んで来ました。二匹の

魚は、すぐに仲良くなりました。

 

やがて夏になり、雨の降らない日が続くと、小さな池の水は、どんどん減っていきました。

 

小さな魚は、大きな魚に言いました。

「このままでは、この池の水はなくなり、二匹とも死んでしまう。あっちの川は、たくさんの水が流れている。どうにかして、あっちの川に行ければ助かるんだけどなぁ。でも、ぼく達は、人のように歩けないし、鳥のように空も飛べない。どうしようもないね」

 

それを聞いていた大きな魚は、しばらく考えて、こう言いました。

「そうだね、僕達は、水がなくちゃ生きられない。それも、汚れた水じゃなく、きれいな水じゃなきゃダメなんだ。このままだと、本当に僕達は二匹とも死んでしまう。でも一匹だけは助かる方法を思いついたよ。二匹とも死んでしまうより、一つの命が助かれば、その一つの命は、何年か先に、新しい命を何個も作り出せるだろう。そして、その新しい命達は、また次の新しい命を、たくさんつないでいってくれるんだ。ねえ、希望は捨てちゃいけないんだよ。僕の親友君」

 

言い終わると、大きな魚は、小さな魚を口の中へ入れました。そして、できる

限り大きくジャンプすると、空へ向かって、小さな魚をはき出しました。

 

突然のことに驚いて、目を閉じていた小さな魚は、そっと目を開けて、びっくりしました。小さな魚が

いたのは、大きな川だったのですから。

「お父さんは、自分の命よりも別の命を救ってくれた親友を決して忘れない。そして、その親友の願い

だった、新しい命が、お前達なんだよ。お前達は、このきれいな水を守り、そしてお前達の命は、また新たな命を作り出す希望なんだということを忘れないでおくれ」

 そう言い終えると、魚の親子は、ゆっくり川を下っていきました。

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