【特別賞】ぼくとしぜん
「こらっ、良太、ちゃんと勉強しなさい!」
母さんが、ぼくのへやをのぞきこむなり言った。ちょっと休けいしてただけなのに、すぐそう言うんだから。
「良太はお返事もできないの?」
「うるさい、うるさい!」
ぼくはそうさけぶと、走って家を飛び出した。 「どこに行くのぉぉ、りょうたぁぁぁ……」 母さんの声が追いかけてきた。
母さんの言うとおりだ。母さんにはらが立って家を出てきたけれど、行くところがない。一人ぼっちだ。
ぼくは住宅地をトボトボ歩いた。クッキーの焼けるいいにおいがした。家に帰りたいけれど、はずかし
い。母さん、心配しているかな……。
ふと気がつくと、家の近くの林の前に来ていた。林といっても、ぼくの学校の校庭の半分ぐらいの大き
さしかない。そのわりに暗くて、こわい。そういえば、ぼくのおじいちゃんはここに住んでいるんだった。
おじいちゃんの所に行こう。むくちな人だけど、まごのぼくを追い出したりはしないはずだよね。おじいちゃんは、林の中の小屋に住んでいるんだ。ぼくは小屋をさがしながら、林の中に入っていった。
すると、木でできた小屋が見えた。ぼくが小屋に走りより、とびらをゴンゴンとこぶしでたたいた。
「おじいちゃん、ぼくだよ。中に入れて!」
「おう、良太か」
後ろから声がしたのでおどろいた。ふりむいたら、きのこを手に持ったおじいちゃんが立っていた。
「中に入りなさい。お茶をいれてやろう」 「おじゃまします」
そう言ってぼくは小屋の中に入り、ちゃぶ台の横にすわった。物が少なくて、木のにおいのする小屋だった。
おじいちゃんは、お茶をいれた茶碗をコトリとちゃぶ台に置くと、自分もすわった。
「あのね、ぼくの母さんが、とってもひどいの……」
ぼくは話しはじめた。部屋に押し込められて、あれをやれ、これをやれと母さんに言われ、ついに家を飛び出してここに来たということを。話しはじめたら止まらなかった。おじいちゃんはだまってきいていた。
おじいちゃんは、しばらくしてからしゃべりはじめた。
「生活の営みには、速さがある。この林の速さはゆっくりでのびのびとしている。だが、君のお母さんの生活はとても速い。だから心のよゆうをなくして、良太を閉じ込めてしまうのじゃろう」
「どうすれば、ゆっくりになるの?」
「自然を感じ、ともに生きること、それのみじゃ。一番よくわかる自然の速さは、われらの生活のみなもとの水、すなわち雨がふるときじゃよ。ほら、うわさをすれば」
小屋のまどガラスに、どんどん雨つぶがついて、集まったしずくがさらに大きなつぶをつくり、流れ落ちていった。雨がふってきたんだ。
ぼくは目を閉じて、からだ中を耳にして、おじいちゃんの言う、ゆっくりの営みを感じてみようとした。
サァァァァ……ザァァァァ…… トクトクトクトク、トクトクトクトク ピチャン……ピチャン…… ポ
ツッ、ポツッ、ポツ、ポツッ
雨の音と、ぼくの心ぞうの音が重なって、ゆったりとした時がすぎていった。今にも眠ってしまいそう
な、安らかですてきな時間だった。
ぼくは目を開けて、おじいちゃんに言った。
「ぼく、雨の速さがわかった。雨と友だちになれたみたい。すごく気持ちよかった」
「そうか。母さんにも教えてあげなさい。さて、そろそろおうちに帰ろうな。送っていくぞ」
「うん」
なんだか、とてもすがすがしかった。
気がつくと、雨はすっかりやんでいた。林を歩きながら上を見上げると、木の葉っぱと葉っぱの間から、とろとろとした金色の光がぼくに投げかけられていた。おちてきた雨のつゆが、ぼくのかみの毛をやさしくぬらした。
「ぼくは、林や雨といっしょに生きていけるよ」
【奨励賞】ひと夏の・・・
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