【特別賞】海の二つの顔
私には海に対する理想があります。どこまでも続く広い広い海。砂浜に座ってキレイな夕日を眺めな
がら心をキレイにする。海の近くに住んでそんな日常を送ることです。
しかし、私には一つ、心にひっかかる部分があります。それは津波です。あの東日本大震災の時、私の
父は単身赴任で宮城県石巻市にいました。そのため、父が住んでいたアパートは跡形もなくなり、車も
全て流されました。そして父は奇跡的に家に帰ってくることができました。
でも父が持って帰ってきたビニール袋には泥がつき、水で重たくなった仕事の作業着が入れられてい
ました。本当に大変な思いでここまで帰って来たんだなと改めて思いました。父は、もう一度石巻に戻って、ボランティア活動をしたいと言っていましたが、家族全員が反対し、現場に戻ることはありませんでした。
震災から数ヶ月経ったある日、私は父に連れられて宮城県に行きました。そこはひどく荒れ果てた状
態でした。地面は泥一面で、ぐちゃぐちゃの車が何台も積み重なったまま。建物の壁や電信柱には津波の跡と思われる一本の線。私はこの光景を見て、思わず涙があふれ出してしまいました。この場所で何千人もの命が一瞬で奪われ、まだ帰りを待つ家族もたくさんいる。
そんな事を考えると本当に辛く、心が虚しくなるばかりです。今でも広い海の下にはがれきや家具、
考えたくはないけれどたくさんの人達が。本当に考えれば考えるほど怖いし、切ないです。
私が理想としていたキレイな海とは裏腹に、恐ろしい海もあることがこの震災を通してよく分かりま
した。でも私は、だからといって海の近くに住みたくないとは思いません。
将来、いつかは理想的な暮らしができたらいいなって思います。どうして人は、海を見ると素直な気
持ちになれるんでしょうか。
いつか、「今日があったことに感謝します。今日があったおかげで、また色んな人に出会えました。色
んな話ができました。ありがとうございます。そして明日がある事に感謝します」とキレイな夕日の前
で広い広い海に向かって言える日が来ますように。


