2009年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  渡部 市千

【特別賞】約束の言葉

ザバァァン…今日も、大漁の魚が釣れた。網にかかっている魚は百匹を超えるだろう。そのほとんど

が、さんま。この町の特産物だ。

「おかえりなさい今日もいっぱいとれたね…」

僕は魚が大好き!いつも父さんの帰りを、今か今かと待っている。魚で一番好きなのはさんま。味が

何よりもおいしい!そして今日も、さんまを口いっぱいにほうばった。 「明日もいっぱい、いっぱい取ってきてね!」

異変が起こったのは、僕が三年生のころだった。

父さんが漁から帰ってきて、いつものように、取れた魚を見せてくれた。網の中の光景に、僕は目を

疑った。網の中には三十匹ほどの魚。しかし、僕の好きなさんまは一匹も入っていなかった。

「今日は調子が悪かったのかな…明日はいっぱい取ってきてやるからな」 父さんは悲しそうな僕を見て、励ますように言った。

僕は父さんのその言葉を信じて、次の日を待った。

「父さん、今日はたくさん取れたよね」

僕は網の中を見た。そこには魚が二十匹いるか、いないかという少なさだった。

「どうして…?」

と僕は声をあげた。すると、父さんが重い口を開いた。 「明日はいっぱい取ってくるから…」

その日の夜、ぼくは、なかなか寝付けなかった。明日も魚が少なかったら…また、取れる魚の量が減っ

ていたら…どうしてさんまが取れなくなったのかな…さんまの味が懐かしい気がする。いろいろな疑問や

不安が僕の頭を横切った。

二日食べてないだけなのに…。帰ってきてよ…。

次の日。ドキドキしながら、父さんの帰りを待った。父さんの船が見えた!船が港に到着すると、僕

は船から網を引っ張り出した。網には昨日と同じくらいの魚がぴちぴちと動いている。でもやっぱりさんまはいない。これは町全体の問題になっていたのだ。

さんまが取れなくなり、ちょうど一ヶ月がたった。 「明日はいっぱい取ってきてやるからな…」

この言葉をもう何回聞いただろう。もう完全にさんまが取れなくなり、食卓からも消えた。さんまはも

う帰ってこないのか。

そう思い始めたある日、僕は不思議な夢を見た。

目の前には、僕と同じくらいの大きさのさんまがいた。僕はそのさんまに話しかけた。

「お前はだれだ」

「僕はさんま。僕たちは、今、あなたの住んでいる町から少し離れた海に住んでいます」

僕は大きなさんまに疑問を投げかけた。 「どうして僕の住んでいる町から姿を消したの」

大きなさんまは悲しそうな顔で口を開いた。

「あなた達人間が来る日も来る日も、僕らの大切な家族を奪い、海を汚した…。そして僕らは、我慢で

きなくなり、とうとうこの町から離れた場所に移り住んだのです」

僕は言葉を返すことができなかった。毎日、たくさん取れたさんまに喜んでいる人間たちの影で、多く

のさんまたちが悲しんでいることをはじめて知った。

「僕たち人間が、勝手なことをしていたんだ…。もう帰ってはこないの?」

「町のみんなで、海をきれいにしてください。ごみを拾うとか、資源を大切にするとか…そして、網を小さくして魚を取る量を減らしてください。そうしたら…」

朝日が昇った。僕は目を覚ました。

大きなさんまが言いかけた「そうしたら…」の続きは何なのだろうか。海に帰ってくると言いたかった

のだろうか。

僕は、この夢のことを家族に話してみた。すると、父さんがこう言った。

「そういえば、いっぱい取れるからと言って、取りすぎてしまっていたなあ。魚たちにはひどいことをしてしまった。よし魚たちが帰ってこられる環境づくりと、とる量の制限づくりを町の人たちに提案

してみよう」

「そうだね!人間だけが、良い思いをするのではなく、ほかの生き物と共に、仲良く暮らしていかな

きゃ!絶対さんまを海に戻そうね!」

こうして、「さんまを海に戻そう」運動が始まった。町はどんどん変わっていった。ごみ拾いが行われ、リサイクルボックスが置かれ、ごみの分別…いつの間にか、ボランティアが増え、ついには、町の人たち全員が運動に参加していた。町の人々の思いは一つ。さんまが戻って来てくれること。それしかなかった。

〜それから、一年〜

海はきれいになり、町は生まれ変わった。

ある日の夕方。僕たちは浜辺でごみ拾いを行っていた。

「さ、さんまが帰ってきたぞー」

誰かの声にみんなが海に視線を向けた。そこには魚の影があった。きれいに透き通った海にさんまの姿

が。町のみんながいっせいに歓声をあげた。喜びのあまり泣き出す人も少なくはなかった。

「さんまを海に戻そう」運動により、海をきれいにする習慣がつけられ、さんまが前よりたくさん見ら

れるようになった。そして、さんまが帰ってきてから、漁に出る船も多くなった。さらに、網が小さく

なったことによって、一度に百匹以上取られていた魚たちも、五十匹ぐらいになった。

僕は今、大きなさんまにとても惑謝している。大きなさんまに会わなければ、この町はどうなっていた

ことか。大人になっても、この出来事は絶対忘れない。

「ありがとう!大きなさんまさん!もう自然を壊したり、むやみに魚を取ったりはしないよ!僕

だけじゃなく、町のみんなが約束するよ!本当にありがとう」

一匹の魚が大きく飛び跳ねた。それを見た僕は、家に向かって走り出した。 遠くには赤く、きれいな夕日がキラキラと輝いていた。

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