【準ざぶん大賞】「濾過」する思い
新聞に大きく「濾過(ろか)」という文字を掲載したビールの広告を目にした。未成年の
私には、その商品には何の興味もわかなかったが、その時、随分、難しい漢字だなという印
象を持った。
こんな漢字にはほんの少しばかり敏感な、ごく普通の中学生の私は、青森県むつ市に住ん
でいる。むつ市という名が全国にどれほど知られているかは疑問なのだが、日本三大霊場恐
山(おそれざん)はどうやら知名度が高い。その恐山はわがむつ市にある。
学校の「総合的な学習の時間」で、昨年度私はこの恐山に生息する動植物の生態について
様々調べた。
まず、ここ恐山の標高二百メートルの所には、宇曽利山湖という湖があり、その付近では
温泉がわいていたり、また数々の硫気孔があって水蒸気とともに亜硫酸ガス、硫化水素の有
毒ガスが噴き出ている。こうした独特な環境だけでも驚くのだが、特筆すべきはその湖水が
レモン水と同じ弱酸性の水であるということである。このような水にあっては、およそ生物
は棲めないはずなのに、ウグイという魚がしっかり生息している。摩訶不思議。
この世界中の魚類で最も酸性度の強い水に棲むウグイの数が激減した時期がある。昭和四
十年末。ウグイが産卵のため遡上する流入河川のいくつかに、ヒューム管敷設工事を施した。
その上、私たち人間の乱獲、卵の踏みつぶしによって彼らの多くが死滅した。
さらに、この宇曽利山湖には数々の小川が注ぐのだが、そのうちのひとつ、頭無沢という
川には水銀を多く含むという。水銀といえばあの水俣病の元凶とも称された有毒な物質であ
る。しかし、ここに棲むコケが水銀を食べる(吸収する)性質を持つというのだ。ヒロハツ
ボミゴケ(別名、チャツボミゴケ)という名前だそうで、水銀を食べるという行為は世界で
も類を見ないのだそうだ。このコケの水銀を吸収するはたらきのおかげで、清らかな水が出
来上がっている。まさに「濾過」していることになる。現に、恐山を仰ぐむつ市は、豊かで
清らかな水に満ち、私たちもその恩恵を存分に授かっている。
強酸性の水の中に生息するウグイにせよ、有毒な水銀を清らかな水に変えるコケにせよ、
水に対する意識の強さがうかがえる。
それに比べて私たち人間はどうだろう。こうした生物たちの生き方に反する姿、すなわち
清らかな水を平気で汚している現状がありはしないか。
水をもとの清らかな水に戻すために、私たちも彼らと「濾過」する運動をともにすべきで
はないだろうか。
例えば、家庭や工場で出た排水をしっかりと浄化して、川や海にかえすということは、高
度な文明社会に生きつづける私たち人間の技術からすれば、容易に出来るはずである。しか
しながら、それがなかなか果たせないでいるのは、自然を大切にしようとする意識の欠如と
しかいいようがない。生物が皆、本能として持っているはずの「水を大切にする心」をいつ
しか人類は失いかけてしまっている。
でも、今からでも決して遅くはない。水に対する感謝、畏敬の念といった思いを取り戻し、
堅固に持つことによって、豊かで潤いのある生活はこれからでも築けると、私は思う。
最初に触れた「濾過」の「濾」の漢字には「さんずい」に「思」という字が含まれている。
水に対する思いやりを持つことが、水を「濾過」することであるといえる。
私たち人間こそ、水を「濾過」することによってのみ生きていける生物であるはずなのだ。


