2009年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  荒木 崇

【特別賞】コップ一杯の幸せの水

「水とか味の違い分からんし」

私は、お盆に母の里である矢部村に行くことになった。私が行く準備をしていると、弟が母になにか

言っていた。

「ねーお母さん。矢部行く途中で水くむとこあるやん?あそこで水くんで行こうばい」

そこは、黒木町の月足のあたりにある、わき水が出ているところだ。私が、 「何でそこの水くみたいと?」

と言うと、弟は、

「まじおいしいばい一回飲んでみてん」

と言った。

「水の味ってそげん違うっけ」 と考えていた。

家を出発し、二十分と少しかかって、わき水の出るところに着いた。弟は嬉しそうに、両腕にペットボ

トルを抱えて水をくみに行った。私はまだあまり興味がなかったので、車で待つことにした。

しばらくして、水が入ったペットボトルを重たそうに持ってきた弟の顔は、笑顔でいっぱいだった。

矢部村の祖母の家に着くと弟は、

「ばあちゃん、コップちょーだい」

と言って水を飲み始めた。ゴクゴクッと勢いよく飲み干すと、

「あぁ〜おいしかぁ」

と言って二階に上がって行った。ペットボトルに入れられた水はとても透き通っていて、まるで私に飲

んでくれと言っているような美しさだった。私は水を飲むことにした。ペットボトルの口から、静かに上品にコップへと入っていった。

「ゴクッー。…おいしい」

私はとても驚いた。今までに、こんなに水がおいしいと思ったことはなかったからだ。気がつくと一気

に飲み干していた。いつもは生意気でうっとうしい弟にも、この水のおいしさを教えてくれたことには本当に感謝した。

次の日、家に帰ることになった。私と弟はもう一度あのわき水の出るところに行きたいと言い、連れて

行ってもらった。車を降り、水のところに行った。そこは小さなため池のようなところだった。ここの水もやっぱり透き通っていてきれいだった。 「ねえちゃん、手つけてみてん」

弟に言われ、手を水の中に入れると、氷が入っているかと思うほど冷たかった。私はここで小さな幸せ

を感じていた。前の日に、弟が笑顔いっぱいになっていたわけが分かった。

たった一杯の水がこんなにもおいしく、幸せを感じさせてくれるものとは思わなかった。

いつまでも、透き通ったおいしい水が飲みたいと思う。

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