【特別賞】コップ一杯の幸せの水
「水とか味の違い分からんし」
私は、お盆に母の里である矢部村に行くことになった。私が行く準備をしていると、弟が母になにか
言っていた。
「ねーお母さん。矢部行く途中で水くむとこあるやん?あそこで水くんで行こうばい」
そこは、黒木町の月足のあたりにある、わき水が出ているところだ。私が、 「何でそこの水くみたいと?」
と言うと、弟は、
「まじおいしいばい一回飲んでみてん」
と言った。
「水の味ってそげん違うっけ」 と考えていた。
家を出発し、二十分と少しかかって、わき水の出るところに着いた。弟は嬉しそうに、両腕にペットボ
トルを抱えて水をくみに行った。私はまだあまり興味がなかったので、車で待つことにした。
しばらくして、水が入ったペットボトルを重たそうに持ってきた弟の顔は、笑顔でいっぱいだった。
矢部村の祖母の家に着くと弟は、
「ばあちゃん、コップちょーだい」
と言って水を飲み始めた。ゴクゴクッと勢いよく飲み干すと、
「あぁ〜おいしかぁ」
と言って二階に上がって行った。ペットボトルに入れられた水はとても透き通っていて、まるで私に飲
んでくれと言っているような美しさだった。私は水を飲むことにした。ペットボトルの口から、静かに上品にコップへと入っていった。
「ゴクッー。…おいしい」
私はとても驚いた。今までに、こんなに水がおいしいと思ったことはなかったからだ。気がつくと一気
に飲み干していた。いつもは生意気でうっとうしい弟にも、この水のおいしさを教えてくれたことには本当に感謝した。
次の日、家に帰ることになった。私と弟はもう一度あのわき水の出るところに行きたいと言い、連れて
行ってもらった。車を降り、水のところに行った。そこは小さなため池のようなところだった。ここの水もやっぱり透き通っていてきれいだった。 「ねえちゃん、手つけてみてん」
弟に言われ、手を水の中に入れると、氷が入っているかと思うほど冷たかった。私はここで小さな幸せ
を感じていた。前の日に、弟が笑顔いっぱいになっていたわけが分かった。
たった一杯の水がこんなにもおいしく、幸せを感じさせてくれるものとは思わなかった。
いつまでも、透き通ったおいしい水が飲みたいと思う。


