【特別賞】あ、しまった!
「この風なら、ヨットはどっちに動く?」
しまった。予習してくればよかった。いや復習か。
三回目にもなるヨット体験なのに、まだ体は覚えてくれていない。一年ぶりの小樽の海。海の様子がち
がって感じる。足にまとわりつくかと思えば離れて、ほてった足の熱をうばっていった波。今年はずっとからみつき、冷たいとは感じない。去年はたくさんいたクラゲも、さっぱり見かけない。同じ八月。同じ場所。それなのに、海の色も、波の感触も、ちがって感じるのは気候のせいなのか、ぼくのせいなのか。
「おうい、リーダー、早く指示を下さい」
しまった。ぼくはリーダーだった。
経験値に物を言わせて立候補したものの、何も考えていない。クルーのメンバーのかじとり分担をし
て、とりあえず帆をあげようか。
しまった。風がない。ヨットを動かすような風がない。
帆は上げる必要がなく、エンジン走行。七月中は肌寒い日が続いた北海道。やっと本来の夏らしく、暑
くて青空の広がる今日が、体験の日に当たって『運がいい』と思ったのは、間違いだった。
「動くときは靴をはいて!」
しまった。はだしだ。
船長の怒鳴り声にハッとする。かじとりの交代であわてることがないように、場所を移動したところで
の注意。格好悪いリーダーだ。初歩的ミスじゃないか。
交代時間を計りながら、船べりから足を出す。
しまった。真ん中にロープがない。落ちる。
上の方のロープにかろうじてつかまり、体を支えた。ここで落ちたら格好悪いじゃすまない。
「遊ぶぞ!」
折り返し地点に到着したところで船長に指示され、ヨットから下りる。 痛い!シューズをはいているのに足に痛みが走る。
しまった。ウニをふんでしまった。
ぼくの体重がのしかかったウニ。今回の魚のエサは、君にしよう。
しまった。もたついているうちに魚が逃げた。
せっかくのごちそうはカモメが横取りしていった。いやなカモメだ。
おや、ヤドカリがいる。そっとつまむ。体は緑色。二センチほどしかない貝に入っているけれど、大き
さはどれくらいだろう。
しまった。殻からヤドカリを出してしまった。
かわいそうなことをした。もどしてやろうと試みたが、ヤドカリは古屋に入ってくれず、新屋を探すと
でもいうように波間に消えていった。
着岸。太いロープを持たされた。ぐらぐらする船を陸に留める大切な支え網だ。
しまった。おもったより重い。
ロープと一緒に体まで飛んでいきそうで怖い。細心の注意をはらってのロープ投げ。よし、成功。各部
異常なし。良い航海だった。リーダーの任務も無事終了。ぼくもちょっとは成長しただろうか。
今年の写真、今年の教科書。すべてがぼくの宝物だ。そして今年の名札。
しまった。名札はびしょびしょだ。残念!
最後はリーダーのぼくの発声での船長へのお礼の言葉。「ありがとうございました」
あ、しまった。帽子をとるのを忘れた。
これは、失礼だ。お世話になった船長にも、海にも。
いつも、ちがう顔を見せてくれる海。わくわくさせてくれる海。ぼくの大好きな海、また来ます。「し
まった」と言わないように、もっと勉強してきます。


