【準ざぶん大賞】奇跡の川
この夏、宮崎県の小川(こがわ)でカヌーの川下りを楽しんだ。案内人は、かわじんさん
という、まるで山から出てきた熊のような、たくましいおじさんだった。
カヌーをこいでゆっくりと川を下る。さらさらと流れる川の水面が、太陽の光を浴びて宝
石のように輝いている。川辺には新緑の葉を茂らせた木々がせり出し、川が緑に染まってい
る。僕の前には、どこまでも透明な川が続いていた。この川は九州の四万十川と例えられ、
『奇跡の川』と呼ばれているそうだ。初めてこの美しい川を見た時、そう呼ぶにふさわしい
川だと思った。
「この川に住んでいる魚は、日本で一番種類が多いんだよ」
と、かわじんさんが教えてくれた。川底に、たくさんの魚が群れを作って泳いでいるのが
見える。手を伸ばして近づいても逃げない。僕はうれしくなって魚と一緒に泳いだ。
この美しい川をどうやって守ってきたのだろう。かわじんさんは、カヌーをこぎながら『奇
跡の川』の秘密を話してくれた。
目の前には、九州山地の雄大な山々が連なっている。この川は、鹿やサルも棲むという広
葉樹の原生林に囲まれていた。広葉樹は冬に葉を落とす。落ちた葉は腐葉土となり、雨を
ゆっくりと地下に浸み込ませて水をろ過していく。こうしてきれいになった水はわき水とな
り、川底からこんこんとわき出していた。
僕は前夜に見た神楽の神話伝説を思い出した。神話では、イザナギ、イザナミという二人
の神様がこの世界を作ったとされている。昔の人は、国や海や山や川は神様の作った物と信
じ、自然を恐れ、敬う気持ちを受け継いできた。この雄大な自然の中にいると、この風景を
生み出したのは、きっと神様の仕業に違いないと思った。
カヌーで下流に近づいたとき、僕は地元の子どもたちと一緒に、沈下橋から何度も川に飛
び込んで遊んだ。そして、木にかかったターザンロープで遠くに飛んだ。川の水が冷たくて、
水しぶきが気持ちよかった。地域の人たちは、遊んだり、アユ漁をしたりする生活になじん
だこの川を、汚さないように気をつけ、とても大切にしているそうだ。僕は、この川がこの
ままずっと変わらないでほしいと心から思った。


