2007年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  蓬田 やすひろ

【準ざぶん大賞】人魚の涙

私は人魚、大陸の大きな河に住んでいる。海に住んでいる仲間は多いけど……私たちは河

に住んでいる。それだけで、人間たちは 「珍しい!」

って喜ぶの。広い世界の中でも河に住んでいる人魚は珍しいんだって。他の国の大きな河に

も、私の仲間が住んでいると聞いたけど、もちろん会ったことはないの。私たちは海に住ん

でいる仲間とは違ってピンクの美しい肌を持っているの。だから、私たちは「長江の女神」

と呼ばれてきたの。人間たちは、 「美しい!」

って私たちを見に来るの。私たちは嬉しくなって人間たちと友達になりたいって思うように

なった。私たちの住んでいる河は、それはきれいな水が流れていた。その澄んだ水の中で私

たちは、のんびりと暮らしていた。ゆったりと流れる水の中で、きれいな空を見たり、きれ

いな水の中で仲間と戯れ合ったり、人間たちがやってくると、水面を泳いで

「友達になろうよ!」

って呼びかけてきた。楽しい一日が続いていた。

でも、ある日から不思議なことが起こり始めた。水の流れは変わってはいないのに

「体が苦しい!」

って言う仲間が少しずつ増えてきた。そう言えば、水の中で私たちと一緒に遊ぶ魚たちの数

も少しずつ減ってきた…。いったい、どうしたというのだろう。私たちには、わからなかっ

た。そして、ついに恐ろしいことが起こり始めたの。 「苦しいの…誰か助けて…!」

仲間の一匹が、そう叫ぶと水面に浮かんでいった。そして、そのまま、もどっては来なかっ

た。そんなことが、何回か続いたの。どうしてなのか…私たちにはわかなかったわ。そうし

ているうちに、私たちの暮らしてきた美しい河が、だんだん汚れてきていることに気がつい

たの。潜ると、いままでは、遠くまで見えていたはずの水の中が、なんだかかすんだように

見えにくいの。だから、私たちはもっときれいなすみかを探して、あちこちを泳ぎ回った。

でも、昔の美しい水は…もう、何処にもない。

私たちは、人間と同じだから、呼吸をするために水面に顔を出すの。ある日、水面から顔

を出したとき、恐ろしいものを見てしまったの。汚くて濁った水が、ものすごい勢いで私た

ちの河に流れ込んでくるの。臭くて、濁っていて息もできないくらい!恐ろしくなって私

たちは、一目散に逃げ出した。でも、そういう景色をたくさんの場所で見るようになったの。

一緒にきれいな水を探していく仲間がだんだん減っていった。苦しそうに、もがきながら…
水面に浮かんでいって二度と帰ってくることはなかった。

   

もう、私の仲間は十匹もいなくなってしまった。そして、今、みんな苦しそうな顔をして

いる。病気になっているのがわかるわ。私も、もう体を動かしているのが辛くてたまらない。

「お願い!誰か私たちを助けて!元の美しい河を返して!」

私たちは、船に乗った人間たちに呼びかけ続ける。でも、その思いは伝わっていない。

「お願い!何もいらないから…きれいな水を私たちに返して!」

そう叫びながら泳いでいる私たちの姿が、願いが、わかってくれるかしら。

でも、もうだめかもしれない…私の体もだんだん動かなくなってきている。苦しくてたま

らない。ついに、私の体は動かなくなってしまった。力なく、水面に引き寄せられていく私

は、少しずつ薄れていく意識の中でつぶやいた。 「何故?私たちは苦しむの?誰か教えて!」

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