【ざぶん環境賞】屋久島の水
「ここは山と海、どっちなんだろう」ぎりぎりまで続いている山並みや、海岸線に沿って走っ
ている道路を、小さな屋久島空港から眺めて、私はそう思った。
小さいころ、父母に連れられていった海の景色は、山を抜けてまっすぐな道を進んでいく
と、遠くに海が見えるというもの。それとは違うこの山並みは、雑誌でよく見る屋久島の山
だった。こんなに晴れているのに、山頂には雲がかかっている。
翌日、私たちは山に登った。特に、「世界遺産屋久島」に興味はない。ただ、何千年も生
きている森が残っているのを、この目で確かめたかった。
登山なんて疲れるから、やりたくなかった。山に入るとすぐ雨が降ってきた。雨が降るこ
とは予想していたので、特に驚かなかった。整備された歩道を歩きながら、耳に入るのは鳥
の声ではなく、水の音だった。
いつの頃か忘れたが、家にある古いCDから雨の降っているような音がした。外は晴れて
いるのにおかしいなと思っていたら、それは屋久島の森と川の音を集めたCDだった。「へ
んなCD」としか思っていなかったけれど、父が昔から屋久島に特別な思いがあることがわ
かった。
川に近づくにつれて、その音はますます大きくなる。その音は、今降っている雨の音も消
してしまう。川は豊富な水量で、透明度が高い。私はこんなきれいな水を見たことがない。
思わず手ですくってみた。父が「飲めるよ」というので、生まれてはじめて川の水を飲んで
みた。何の臭みもなくてあまい味がした。おいしかった。私たちが山の上を目指すことなく
川にいる間、多くの登山者が山の上を目指して登っていく。
結局、川の周りを行ったり来たりして屋久島で過ごした。森では無数の苔が木々を覆って
いた。苔が木々と共生しているかのようだった。その空気も水につつまれていた。湿気が多
いはずなのに不快ではなかった。深呼吸すると森のにおいがするみたいだった。家にもこの
空気を持って帰りたいと思った。
数千年の森の林は水がなくては生きられない。その水を守るのがこの川だ。水の音はざわ
ざわと語りかけているかのようだ。なんと言っているのかわからない。
環境問題というとテーマが重くなり、私には無理だと思う。実際何をしていいかわからな
い。けれど、不思議な空気に包まれた森に入り、川の音に耳を傾けると、それだけで満足で
きる。
この森を、もっとたくさんの人に知ってもらいたい。そしてこの森を守るために、この川
を残したい。余計な手はなるべく加えずに。
屋久島ではさまざまな自然を守る活動が行われていた。私も、自分が通ったことで、苔が
傷ついたりしないよう気を遣って歩いた。川を汚すようなことをしないよう、慎重に歩いた。
家ではたまに屋久島のCDを聞いて、あの川を思い出している。私は日常生活に戻り、学
校に通っている。今まで気にしなかった山並みを眺めるようになった。川は曲がりくねり、
やがて海に到達するだろう。私も行き先を見つけなければならない。


