【特別賞】両手でつかんだイワシ
「ミャーキャーミャーキャー」
聞いたことのないような声が、大きく聞こえてきた。家族と海に遊びに来ていたぼくは、車
のまどにはりついた。 「なんだ
、あれは」
たくさんの白い鳥たちが雪のようにまい、港の上を飛んでいる。数百ぴきはいるだろうか。
父さんは、港のすぐ近くに車を止めた。ぼくは、あわてて父さんのあとをついていく。
「バッシャーン」
波が、ぼう波ていに打ちよせている。まんちょうだ。ふと下を見ると、何かが光り、ツーツー
ツーとあちこちから来ては、矢のように散っていく。 「魚じゃないか。よし」
と父さんが言った。ぼくは父さんにつかまって、ぼう波ていの下にある小さな砂浜におりた。
「いた、あそこにいるよ」
ぼくは、岩かげでピチピチとはねている魚を見つけた。父さんが、のぞきこんで言った。
「イワシだ」 「やったぞ。すごい」
ぼくは、手をおわんのようにして、すくい上げた。はねるイワシは、冷たくヌルヌルしてい
る。つかんだ両手から頭が出てくる。おばあちゃんが、持っていたビニールぶくろをあわて
てさし出してくれた。その後ぼくは、二ひき目、三びき目とイワシをつかまえた。おばあちゃ
んは、ビニールぶくろの中をのぞきこみながら、 「これは、さし身にできるわ」
と喜んだ。みんな笑った。
家に帰って、ぼくはおばあちゃんから昔の海の話を聞いた。おばあちゃんは、港の近くに
住んでいたのだそうだ。
「魚は買って食べたの」
とぼくが聞くと、
「毎日、魚をつんだリヤカーが家の前を通るから、それを買ったよ」
と教えてくれた。また、ウミネコに魚を横取りされてしまうこともあったという。やっぱり
ネコは、魚が好きなんだ。おばあちゃんは、
「イワシ、アジ、キス、タコ、イカ、サバ、ヒラメを食べたよ」 と話を続けた。おどろいた。ぼくの食べる魚は決まっている。
ぼくは、いろいろなことが気になって、イワシのことをネットで調べた。すると、「イワシ
のむれは、大きな魚に追われて海面にふ上する。それをねらい、ウミネコが食べに集まる。
昔の漁師は、そのたくさん集まったウミネコのむれ(鳥山)を頼りに漁をしていた」と書か
れているページを見つけた。
そうか。あのとき、ぼくが見たのは鳥山だったのだ。すると、あのイワシは大きな魚に追
われ、にげ場を失った魚だったのか。頭の中で、すべてのことが一つにつながった。ぼくは、
両手をじっと見つめていた。


