2011年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  立石 尚久

【特別賞】あの日の…

「最近のお前らはやる気がなさすぎる。もうすぐ大会なのに、このままでいいのか!だから合宿を開く ことにした。よいな」

 

こうして、野球部顧問の言葉を受け、球児らはバスの中にいた。宿泊先に着いてから顧問は言った。

「この川は学校のそばの川のずーっと上流だ。きれいな水だろう。魚も獲れるのさ。でも近頃、学校のそ ばの川は澱んできている。わかるだろう?」

うなずく球児ら。

「中流辺りに魚釣り場ができて、客がゴミを捨てるようになった。そうして流れてきたゴミがあの汚れな んだよ。お前たちもここで、水から何かを感じてほしい」

 

球児達は練習後に川に入った。水の心地良い冷たさや、泳ぐと上がるしぶきの美しさ。掌に乗ってきた

り、潜って見付けた魚たち。川辺の空を自由に舞うトンボや蝶。小石の下をすみかにしているサワガニ。 爽やかな風。そして水音…。

 

こうしたものから、「キレイな水」は自然の恩恵であり、彼らは水のありがたみを感じた。そして、自

分たちに何ができるかを考えながら中学に戻った。次の日、皆で一斉にあの川の掃除をすることにした。 「やっぱり少しでもきれいにしないとな」

「あっ、これ重いな。みんなちょっと手伝って」

「OK。今行く」

「よっこらしょっと!うーん、重いな。よし!もうちょっとだ!」

  

「よっこらせっ!やったあ!持ちあがった!おれら頑張れるんだなぁ」 「本当だな。これって…野球も同じじゃないか?」

「そうだよな…野球もおれら、もっと頑張らないと…」

「だよな!頑張ろう!」

「おーっ!」

 

汚れた川を見違える程きれいにした後、彼らは仲間を信じて野球をしようと決意し、それから毎日猛

練習を始めた。

 

そして試合を勝ち進んでいき、とうとう県大決勝戦の日を迎えた。奇跡であった。顧問はこう言った。

「川が背中を押しているのだろう」

 

その通りだった。九回裏。今までなら相手にもされなかった学校とだが、違う。一点差だが、リードし
ているのだ。ツーアウト、こちらの守備。キャプテンは今、マウンドに立っている。そし

て、笑みを見せ、 最後となろう球を投げた。

 

その時、あの日の川の水音が、確かに彼には聞こえた。

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