2013年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  岩﨑 晴彦,  未分類

【特別賞】泳ぐ僕と泳ぎたくない彼

僕は海に住んでいる。僕は泳ぐのが大好きだ。青く透き通った水をくぐり抜けるのが、たまらなく気

持ちいい。僕の友達も、皆言っている。海は素晴らしい、最高だって。でも、ある日彼はこんなことを話し出した。

「海は危険なところだよ。僕たちよりも大きい化け物が、僕たちを狙っている。僕の家族は皆食べられ

て、僕はひとりぼっちになった」

え、海が危険だって?確かに、敵はいるけれど、それは仕方のないことだよ。僕たちにとっては当

然のことじゃないか。

「君たちと僕は種族が違うから、君たちはまだ安全なのかもしれない」

そうかもしれない。彼は綺麗な色で、大きくて柔らかくて、いかにも狙われそうな美味しそうな体を

しているんだ。

「それで、僕は考えたんだ。陸に上がったら、きっと安全だって」

そんなの駄目だ!陸にはもっと危険な物があるはずなんだ!

「でも、ここじゃ僕はきっともうじき食われる!その前に逃げなきゃ……」

言いかけた瞬間、断末魔が聞こえた。赤胴よりも黒ずんだ色ではじけ飛ぶ体。思わず吐きそうになっ

て、思い出す。敵はすぐそこにいるんだ。急いで逃げた。ずっと逃げた。ずっと逃げて、逃げ切った。

それから何年か経った。僕はすっかり成長した。僕は泳ぎ続けた。やはり海を捨てきれなかったのだ。

彼の言ったことも一理あるけど、僕は彼を引きとめた以上、海の安全性を体現しないといけないと思ったからだ。でも、ずっと泳ぎ続けて、疲れたよ。永遠に泳げる程に、僕は海が好きだったのに、泳ぐのが好きだったのに、もう疲れてしまった。

彼も、疲れたのかな。海の生き物として泳ぎ、生きることに疲れてしまったのかな、と思った。これか

らどうしようか。海で生きる以外に何かあるかな。彼は陸に上がると言っていた。陸は、どんなところなんだろう。住みやすいのかな。それなら一度、行ってみよう。どうせ、海にはもう仲間なんていないんだから。

そうして僕は歩き始めた。また、誰かが話をしているようだ。 「最近、温暖化とかあって、地球が危ないらしいな」

「一時は火星に移住なんて話もあったよな」

「そうそう。地球に住めなくなる日も近いってことかなあ」

僕は思うんだ。どんな場所にも危険があるならせめて、自分の居たい場所、居るべき場所に居るのが

良いって。僕は海の生き物として、海に生きるのが正しかったんだ。彼が死んだのも当然のことに過ぎなかったんだ。だったら、僕はあの綺麗な心地いい海で、一生を過ごせば良かったな、って……。

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