2008年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  草柳祥祐

【特別賞】てるてる坊主とふれふれ坊主

 

あるとき少年は、鼻歌を口ずさみながらリュックにおやつを詰めると、ティッシュを二組取り出して、

一組を丸くだんごにして、もう一組をそのだんごの上にかぶせ、とれてしまった帽子のひもをぐるぐる巻

き付け、てるてる坊主を作った。

「明日晴れますように」

軒先に吊したてるてる坊主に少年は願った。

「世界中が同じことって思うのだろうか」

曇天を見上げ、てるてる坊主はふと考えた。ふいに隣を見ると、自分より一回り大きい、顔の描かれた逆

さの人形がこちらを見ていた。

「ふれふれ坊主だ」

てるてる坊主には顔は描かない。

「なあ、君のところの子供は、どうして雨を祈ってるんだい?」

 

明かりのついた窓からは、自分を作った少年と同じくらいの女の子がベッドで眠っている。

「熱が出たんだってさ。明日の遠足が延期になればいいって思ってるらしい」 ふれふれ坊主は答えた。

「へえ。でもその子の願いは叶うだろうね」

「ああ。天気の神様は俺に味方してくれたみたいだな」

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黒い雲はどんどん広がって、空はどんどん暗くなる。すると突然、

「雨は悪者なんかじゃないのにな」

そう呟くと、ふれふれ坊主はふっと笑った。てるてる坊主はそれに悲しささえ感じた。

「あっ、雨は良いよ!天の水じゃないか!」

てるてる坊主は慌てて雨を誉めた。

「へっ。晴れを祈ってるやつなんかに言われたかないな」

ふれふれ坊主は少し怒ったように言った。そうして逆さの空を見上げて嘆いた。 「雨も野暮になったもんだぜ」

 

ぽつっと雨が、てるてる坊主に当たる。

「天の恵みが、天の水が、地球を壊してるんだ」

 

てるてる坊主はふれふれ坊主を見た。雨が?

「酸性雨っていうんだとよ。降るだけで森や魚を殺すんだ」

「酸性雨?」

てるてる坊主には聞いたことのない雨だった。

「その雨が地球を溶かしていくんだ」

ふれふれ坊主は、怒りと憎しみを含んだ声で言った。てるてる坊主は怖かった。

 

ザアー。

雨は一層ひどくなって、てるてる坊主の体を濡らして溶かしていく。 「俺もこの雨と一緒に溶けていきたいぜ」

ふれふれ坊主が雨に打たれながら叫んだ。 てるてる坊主は何も言えなかった。

 

そうして朝になった。やはり雨だった。この雨が今にも世界を溶かしているかと思うと、自分を生み出

してくれた人間にさえ、てるてる坊主は憎悪が沸いてきた。

「もう!てるてる坊主の嘘つき!」

自分を作った少年が、自分に怒りと悲しみを込めた目でこっちを見ている。 「世界中のふれふれ坊主たちが苦しんでいるのに!この雨を悲しんでいるのに!」 てるてる坊主が少年に向かって叫んでも、その叫びは届かない。

 

その夜、てるてる坊主はずっと思い悩んでいた。自分は晴れることばかり祈って、何を考えていたんだ

ろう。小さな頭で爆発しそうなほど考えた。

「いってきます!」

少年の声で目が覚めた。朝になっていた。 「あれ?」

ふれふれ坊主はいなかった。代わりに少女が家から出てきて、少年と一緒に歩いていた。

「ああ、晴れてしまったんだ」

屋根から落ちる雨のしずくが、てるてる坊主の顔に落ちる。まるでふれふれ坊主の涙のようだった。

「ふれふれ坊主、大丈夫だよ」

てるてる坊主は言った。

「頭の小さな僕でも分かったんだ。雨は大切なんだ。だから君がいるんだろう?賢い人間ならもっと早

く分かってるよ。だから」

てるてる坊主はぼろぼろの体で、こぼれ落ちてくる天の恵みに誓った。

「だから、君の願った美しい雨が見られるそのときは、僕の顔に顔を描いて、一緒に見ようじゃないか」

 

工場や車の煙でふれふれ坊主は怒っている。森が消えたら光合成はできなくなって、僕の意味がなく

なってしまう。だから、早く気づいて!天の水は天の恵みなんだよ。

 世界中が同じことを思ったその日は、二人の顔に、笑顔があふれる記念日だから。

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