2010年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  原田 維夫

【準ざぶん大賞】サーモとサクラ

あるおだやかな春の日に、小高い山の川でサーモは生まれました。

その翌年、何かに導かれるように海に下り、サーモはどんどん大きくなりました。

そして、大人のサクラマスというサケになった彼は、生まれ故郷の川に向かい泳いでいま

した。恋人のサクラといっしょに。

「イタイッ!サーモ、川の様子が変よ」

体に空き缶が当たったサクラが言います。散歩をしていた人が投げ捨てたのでしょう。

「そうだね。ここも昔はもっとキレイだったんだけどな…」 「そうなの…。おかしなにおいがして気分が悪いわ…」 「よし、早く上に行こうか」

二匹は急いで泳ぎだしました。

「ここまで来たら水もよくなったね」

「えぇ。水の匂いがなつかしい」

少し上流に着いた二匹が話しています。

「安心したよ。じゃあここで休憩しよう。この辺りはトビゲラやカゲロウが多いから」

「そうね。上までは長そうだし、しっかり食べておかないと」

二匹がゆっくりカゲロウなどを食べていると、近くの岩の上のいたカエルが話しかけてき

ました。

「あぁ、サーモさん。待ってましたよ」

「カエルさん!久しぶりだね」

それは、サーモが昔世話になったカエルでした。

「そうだ、サーモさん。少し気になるウワサが届いたんです」 「…何だい?」

「川が途切れていたそうなんです」

「どういうことかしら…?」

「さぁ…。とにかく大変らしいです」

「そうか…。でも行くしかないな」

「そうね」

「お気をつけて!」

「バイバイ、カエルさん!」

ウワサが気になった二匹は上流に急ぎました。

「…ここかぁ」

二匹はその段差にたどりつきました。確かに見上げるような高さから、水がものすごい勢

いでバシャバシャと降ってきます。

「あ、サーモ!よく分からないけど、登れないんだよ 」

先に来ていたサケが叫びました。

「そんなにすごいのか?」

サーモが試しに跳ぶと…。

「うわっ」

水の勢いに負けてたたき落とされました。

「サーモ、大丈夫?」

「…大丈夫」

「お前も頑張れよ!」

そう言うと、彼も跳び始めました。

「どうするの、サーモ…」

心配そうにサクラが聞きます。

「ここでは卵が生めないだろ?だから行くしかないよ」 力強くサーモが答えると、

「そうね」

サクラもうなずきました。

「じゃあ、行くよ!」

二匹はピッタリ寄りそうと、 「三、二、一!」

同時に跳び上がりました。

バチャン!バチャン!水をたたき、グイグイと進む二匹。水しぶきが上がります。

「サーモ!あとどのくらい?」

「もう少し!」

残り十メートル、五メートル、一メートル…!

二匹は見事にその滝を登りきりました。

その翌年の春、川では二匹の子供たちが元気に泳いでいました。

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