2015年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  多田 健一郎

【特別賞】福島の海で泳ぐ

私は、海で泳ぐことが好きでした。小さいころ、夏休みになるとよく家族で海に行って、泳いだりつ

りをしたりしました。岩のすきまにいる小さなカニをつかまえたり、つりに行ったときには、つれた魚

を持ち帰って母が調理したり、アナゴをつった時は当時寿司屋だった祖父に握ってもらったりしました。

しかし、四年前の原発事故で、海に遊びに行けなくなったどころか、実際に海を見ることすらなくな

りました。又、津波が襲った町の大きな爪あとを見て、私は愕然としました。あんなに楽しかった海が、

こんなに大きな被害を与えるものなのかと思うと、海がとても怖く感じました。

小学校六年生までは水泳を習っていましたが、やっぱり大きな広い海で悠々と魚のように泳ぐほう

が、プールで泳ぐよりも楽しいと今でも思います。

そんな時、私は昔海で拾ったシーグラスを眺めます。とても小さく、親指の第一関節分ぐらいの大き

さですが、滑らかな楕円形をしていて、すきとおった緑の奥から、波の音が聞こえてくる気がします。

これを握って目を閉じると、海の楽しかった思い出がよみがえります。姉と一緒にうきわをして波に

乗ったこと。帰る前に、母ときれいな石や貝がらを拾ったこと。浅瀬にいたヤドカリをつついたら動い

て面白かったこと。どれも、はっきりと鮮明に覚えています。

私はいつか、もう一度福島の海で泳ぎたいです。青空の下で、青く輝く海の波に乗り、海の生き物と

ふれあいたいです。

それと、いつか私が親になったときも、海に来て自分の子どもを遊ばせたいです。泳ぎ方や、カニや

ヤドカリがいる場所を教え、同時に海の怖さも教えたいです。素晴らしいところと恐ろしいところを同時に教えることで、自然に対する敬意が次の世代に引きつがれると思います。

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