【特別賞】ボロ負けした日の水
試合にボロ負けした今日は、特に暑い一日だった。
家に帰りつき、くつを脱ぐやいなや、台所に向かう。心臓がドクドクと脈打つ。
ノドはひどくカラカラだ。
キュッ!と蛇口をひねると、あふれ出す水。冷たくなるのを待ちかねて、コップに注ぎ、飲む。あ
わてて飲んで、ゲホゲホとむせる。むせると出てきた涙は、ちょっとしょっぱい。
くやしい時に流す涙は塩からい味。 うれしい時に流す涙は水っぽい味。
人間の体の六〇パーセントは水分でできていて、体の中で一番きれいな排出される水分は、涙なんだ
と、誰かが教えてくれた。
私が今、流している涙は、きれいなのだろうか?コップの中に一粒落ちた涙が、水の波紋を描いた。
耳をすますと、外で暑さしのぎに、母が庭に水を打っている音が聞こえる。土と草の匂いが混ざり、
しめった香りがする。
深く、その匂いを吸い込み、息を整える。
今日、試合にボロ負けした事を、母に何て言おう?素直に言うしかないのだけれど、朝の出掛け
に、笑顔で「いってらっしゃい」と言い、たくさんのお茶をわかして持たせてくれたことを思うと、少
し胸がチクッとする。
しばらくして、台所に入ってきた母は、暑さのせいか、とても汗をかいていた。目があうと「おかえ
り」と言った。結果を報告すると、朝と変わらぬ笑顔で「よく、がんばってきたね」と言ってくれた。
私はもう一度、少しだけ涙を流した。
シャワーで汗を流すように
洗たくをして汚れを洗い流すように
涙を流すと、気持ちもきれいになるような気がする。
私はまた、蛇口をひねり、コップに水を注ぐ。母に渡し、飲むのを見ながら、今度はゆっくりと自分
の口にはこび、ゆっくりと飲む。
体中に水分が満たされ、うるおう。
水って、体の一部なんだと実感する。
この水が、今度はうれしい涙になればいいなと思いながら飲み干す。 私が少し、新しく生まれ変わった気がした。


