【ざぶん文化賞】水がくれた祖父の笑顔
「お宅のご主人は孫がくると、隣の家まで聞こえるような声で笑っているからすぐ分かる」
と、祖母は近所の人から言われたそうだ。祖母はいつも嬉しそうにその話をする。
我が家で母の実家に行くのは年に数回だが、祖父はいつも楽しみに待っていてくれる。
お盆に行くと、祖父は自分で竹を割って作った大がかりな流しそうめんのセットを準備し
ている。スタート地点は縁側で、祖父が大切に育てている芝生の上を通り、ザルを置いたバ
ケツがゴールとなる。そこまでの間に私たち孫四人が、つゆの入った容器とはしを持って準
備する。
スタート地点まで張り巡らされたホースから水を流し、いよいよ始まる。竹の中を水が通
り過ぎる音が心地いい。水はキラキラ輝き、涼しさを感じさせる。 「行くぞー」
嬉しそうに叫ぶ祖父の手から次々とそうめんが流される。 「とれたー」
まだはしを上手に使えないいとこもだんだんコツをつかみ、上手にとれるようになってい
く。
流されるたび、歓声が上がる。はしの角度を工夫して、四人とも上手にとれるようになる。
流れる水の力か、そうめんがとびきり瑞々しく、そして美味しい。
どれほど食べただろう。さすがにもうお腹がいっぱいと思ったころに、なぜか赤い物が流
れてきた。
「うわぁ、ミニトマトだ」
こうして、また歓声が上がる。ゴロッゴロッと、水しぶきを上げながら流れるトマトの動
きがおもしろい。四人でだれもとれないものも出てくる。それでも、とれた時は何だか嬉し
く、瑞々しいミニトマトが一段とおいしい。 「ぼくにもやらせて」
と、いとこが流す方に回ると、もう大変だ。そうめん、ミニトマト、突然キュウリまで流
れてくる。
こんなふうに流れる水によって、祖父母の家のお盆はにぎやかになる。ご近所さんから言
われるくらいだから、一番楽しんでいるのは祖父ということになるだろうか。
その祖父が亡くなって、四度目の夏が来た。お線香をあげ、庭に出てホースを見ると、今
でもあの時の笑顔を思い出す。


