【特別賞】大切なキミへ
サラサラと音がする。小鳥のさえずる音、そして木々の揺れる音もする。眩しくて体勢を変えたいの
だけれど、体が重く、目を開ける力さえ残っていない。ぼんやりする頭を少しずつ回転させようとする
が、それもうまくいかない。その代わりと言ってはなんだが臭覚には問題がないようだ。緑の香り。お
日様の匂いがする。恐らくここは森の中なのだ。この世は音と香りで満たされている。何という幸せな
場所だろう?私はそう思って考える。どうやってここに来たのだろう?そしてどうしてここでこん
な風に横たわっているのだろうと。
久しぶりに見た夢は、私を少しばかり幸せにしてくれた。深呼吸をして、伸びをする。さっきの夢の
世界へさっそく戻りたくなる。私ならピクニックの準備をして、大好きな人と川のせせらぎを聞きなが
らおしゃべりをするだろう。湖面に映る月を見ながら夜通し語り合うのもいいかもしれない。とにかく
この現実から逃げ出せるものなら何でもしよう。この先三ヶ月間お休みがなくても構わない。大好きな
チョコレートをこの先ずっと食べられなくても構わない。その位、今の私にはこの現実が辛すぎた。
人は時として残酷だ。少し気をつけさえすれば、寒い日につける手袋程の優しさを分けてあげられる
というのに…。辛い時、悲しい時、私はいつも川を眺める。それでもどうしようもない時は、海を見に
行く。水は私の心を優しく包み、落ち着かせてくれる。母のお腹の中で優しく守ってくれていた記憶が
そう錯覚させるのだろうか?私を慰めてくれるのも、そっと寄り添ってくれるのも、そして幸せな気
持ちにしてくれるのも、いつも水だった。さざなみが動揺を流し、せせらぎが話を聞いてくれる。明け
ない夜はないと思わせてくれるのは、いつもそこだった。
私の大切な人は私を傷つけない。私の悲しみを共有し、癒そうとしてくれる。私の大切な人は慈しむ。
私の喜びを共有し、更なる幸せを与えてくれる。そういう人がいること。それだけで十分なのだ。そう
教えてくれたのは紛れもなく、キミだ。


