2016年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  おおざわあい

【特別賞】水の記憶

初めての受験生の夏、私はお弁当持ちの塾通いの日々を送っている。プールや海とは無縁の毎日。今

年はそんなの当たり前だと自分に言い聞かせながら、淡々と家と塾を往復する日々を過ごしていた。

塾が休みの日でも、外へ遊びに行く気力も湧かず、昼過ぎにやっと起き出した。

「あ、起きた?おはよう、じゃないか、この時間だもんね(笑)」 と母。母は倉庫の整理をしていた。

「もうさすがにこれでは遊ばないだろうから、処分しようと思って」

と、私と妹が夏になると決まって毎日のように遊んでいたプールをごそごそ出して、ごみ袋に入れて

いた。まだ、はっきりとは目が覚めていない私は、ぼんやりとその姿を見つめていた。すると、だんだ

ん、幼い頃に妹や父や友達と一緒に、我が家のプールで遊んだ記憶がよみがえってきた。

夏休みになると同時に、我が家では大きいビニールプールをふくらませて、良く遊んだものだった。

ビニール製で、あまり丈夫でないので、今処分されようとしているプールはたぶん四代目くらいだろ

う。代を重ねるごとに、私たちの成長に合わせ、プールも巨大化していった。家でのプールは自由その

もの。我が家は密集した住宅街の中にはなく、森や竹やぶに三方を囲まれ、隣の家は見えず、道路より

も高い位置にあるため、人目が全くなかったからだ。主に妹と時々友達、土日は父も一緒にプールに飛

びこみ、大声で歌ったり浮かんだりした。プールの中で、ポテチやスイカ、焼きそばを食べたりもした。

この楽しい思い出を思い出すにつれて、心が暖かくなってきた。幼いころ、夏に遊んだ冷たいプール

の水の感覚がよみがえってきた。そして、何かの本で読んだ「思い出が自分を支えてくれる」という言

葉を思い出した。まだ十五年とちょっとくらいしか生きてないけど、素敵な思い出をたくさん持ってい

ることに気づいた。

「お母さん、お腹すいた」

「そうだよね、朝ごはん食べてないもんね。何食べる?」 「焼きそば!スイカもある?」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です