【特別賞】DROP
僕は、今日も暖かい波に乗って、時々何故かで魚が跳ねるだけの平和な太平洋にプカプカと浮かん でいる。
「眩しい!」
僕は、慌てて目を閉じた。又、体が太陽の方に向いてしまったのだ。海には、僕みたいな水の粒が無 限に居る。何処からか流れてくる波のせいで、体がころころと水面を転がってしまうのだ。
「コロン?コロンだよね?」
突然名前を呼ばれて振り返ると、やや薄めの水色の水の粒が、体を揺らして波を避けながらこちら をみつめている。
「ツルリン?奇跡だ!」
とてつもなく広い海の中で、同じ粒と二度会えるなんて奇跡としか言いようがない。再会の喜びも束 の間、僕の体は、ふわりと浮き上がり空へ吸い込まれて行く。水の粒同士で良く起こる事だ。話してい る途中に、どちらかが蒸発してしまうのだ。僕にとっては、これが初めての蒸発。どんどん遠くなるツ ルリンが見えなくなるまで手を振り続けた。
気が付くと僕は、白いもくもくの上に居た。雲だ。目の前にも、自分の真下にも、知らない粒達が沢 山居る。次の瞬間、一斉に粒達が押し寄せて来た。
「わ。押さないでよ」
一遍に皆の声が大きくなり、耳が潰れそうになった。
「底が抜けて行く!」
「なんだって?」
下を見ると、今まできらめくような白だけだった床が薄れていく。
「僕らは、今から雨粒になって落ちて行くんだ!」
一度蒸発した経験がある粒が、叫んだ。落ちて行くだなんて、生まれてからずっと海に浮かんでいた だけの僕にとって、考えるだけでぞっとする事だ。
「もう落ちるぞ!カウントダウンしよう。三、二、一、行け!」
落ちた経験のある黄緑色の男の子の粒が、みんなを連れて、僅かに残っていた雲の端っこで足を踏み 切った。
「ジャンプ!」
一瞬、宙に浮いた気がした。僕らは真っ逆さまに落ちて行った。僕は、みんなの中に顔を埋めて固く 目をつぶった。
「おい!みんな!俺はテック!男の人のサーフボードが水面に当たって生まれた!そこのコバ
ルトブルーは?」
そこのコバルトブルー?僕?テックと名乗ったリーダー的存在の子の顔を見ると、落ちているの
に、怖くもなさそうに僕の目をしっかり見ている。やっぱり、僕だ。今?
「ぼ、僕は、コロン!くじらの尾びれの水しぶきで生まれた!」
精一杯大きな声を出さないとゴーゴーという雑音で相手に聞こえない。その時、落下のスピードが落 ちた。代わりに横に流されて行く。右側だけに風が当たって冷たい。落ちるのに慣れてきて、僕らが来
た空を見上げた。すると沢山の雨粒が落ちて来ていた。僕らの上にも下にも、右にも左にも、周りの景 色に見とれていると、急に落ちるスピードが速くなった。横からの風が止んだのだ。
「もうすぐだ!」
テックは、満面の笑みを浮かべている。
「もうすぐって?嬉しいの?」
テックは斜め上を見上げて目を輝かせた。夢見る表情だ。
「そりゃあ嬉しいよ。だって、降り立った所に、どんな事が待っているか、楽しみで仕方ないじゃない か」
下に目を向けると、緑色の広い森が近づいていた。
もう怖くなんかない。僕の胸は今わくわくでいっぱいだ。よぉし、あの勢い良く流れる川に飛び込む ぞ。新しい冒険の始まりだ!
終
【特別賞】深海


