【ざぶん文化賞】私にとっての海
真っ青な空の下、私は今朝もフルスピードで自転車を走らせます。メラメラと燃えるような暑さから
隠れるように、木陰の多い公園に入ると、背の高い木々は空に緑のししゅうをほどこしているようです。
「はぁー涼しい」ともれた言葉は、両脇の木々、というより全ての方向から何百匹といるセミの鳴き声
にかきけされました。音は何重にも重なり、まるで木の葉一つ一つから音が出ているようにも感じます。
「夏」を全身で感じていたその時、ふと海の記憶がよみがえってきました。
目の前に広がる、広大な海。それは一面真っ青でもなく、トルコ石のような水色、深緑色が交ざり、
海にしか表せない色を作っています。太陽の光があたり、ダイヤモンドのような白い光を反射する様子
は、とても美しいです。私は飛び込みの順番待ちをしながら、大きな岩の上から見える海に見とれてい
ました。また一人、隣から黄色い声が聞こえてきます。すぐに自分の番が回ってきて、一番出っぱって
いる岩の上へ進みました。下を見ると、「結構高いな」と感じるのは、水が透明で底まで見えるからで
しょうか。下で待つ家族が見守る中、先に飛んだ弟は人一倍目を輝かせています。息を止め、私は水平
線に向かって大きくジャンプしました。「ザッブーン」と気持ちの良い音をたてて、冷たい海水が私を
包みます。白い海水と空気の泡が、私の肌をくすぐりながら、海は私を抱きとめた後、ゆっくりと上へ
持ちあげました。「プッハー」と息を吸って目をあけると、家族の笑顔がとびこんできて、私も一緒に笑
います。そして再び、大岩の後ろにある山から、燃えるように鳴くアブラゼミの声が聞こえてきました。
今年の夏は、梅雨明けと共に終わったと言えるほど雨ばかりの天気が続きました。ニュースで十五日
間連続の雨となったのは、四十年ぶりのことと、毎日のように聞きます。そんな気分が落ち込む中家族
と、今年は私が受験勉強に専念するため、海に行かないと決めました。幼い頃から、毎年欠かさず行っ
ていた海。行くたびに美しい姿を見せ、新たな発見、感動を与えてくれました。そんな海に今年は行け
ないと思うと寂しく、どこか物足りない気持ちでいっぱいになります。しかしだからこそ、海が私の夏
をどんなに色鮮やかに染めていたのだろうと、夏を満喫するのに欠かす事の出来ない存在だと気づきま
した。来年、新たな気持ちで家族とまた行きたい。そう思い、記憶から吹く潮風を胸いっぱいに吸い込
みました。そして、再び鉛筆を握りました。


