2015年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  菊地 新市

【特別賞】とうめいな糸

「今年はだめかもなあ」

おばあちゃんが言った。おばあちゃんとおじいちゃんは、トマトをつくっている。つくったトマトは

ケチャップなどに加工される。だめ、というのはきっと、トマトのこと。なんでだめなんだろう。

「今年は雨が少ないし、虫も多いから。虫に食べられたトマトなんて売れないよね」

おばあちゃんはそう説明してくれた。雨は空から降る大切な栄養だって、前におばあちゃんは言って

いた。梅雨入りしたってテレビでは言っていたけど、雨は全然降ってない。これじゃあ、本当にトマト

は枯れてしまう。

「雨が降らないときは、じょうろで水をやらないと。枯れたらトマト、とれないでしょ?」

水をやるって、この広い畑に?大変だろうな。家が二〜三個つくれそうな大きな畑に、手作業で水

をやるんだ。すごいなあ、おばあちゃんたち。そんな作業をしないとトマトは枯れてしまう。水は、ト
マトにとってそのくらい大切なんだ。 「初トマト!」

そう言ったおばあちゃんの手には、新鮮なトマトが一つ。そういえば、このトマトはケチャップにな

るんだっけ。台所に行くと、ケチャップや砂糖などが並んでる。このケチャップの中にも、おじいちゃ

んやおばあちゃんがつくったトマトが入っているかもしれない。そう考えるとすごいな、と思った。家

でつくったトマトが、形はちがうけど皆の家で食べてもらえる。おじいちゃんとおばあちゃんは、トマ

トで皆とつながっているんだ。

トマトは、水で成長する。水が、皆をつなげている。そう考えると、水が一本のとうめいな糸のよう

に見えた。

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